コンテンツへスキップ


加藤 爽 句集
『白鳥』
2020/3/25刊行
角川文化振興財団

◆第一句集
序:西村和子
装丁:大武尚貴

生きるべき土地と
愛しい家族への深い思いーー。
詩的情念はときに熱き血のごとくほとばしる。
(帯・行方克巳)

◆行方克巳選 十二句抄
風止めば雪道のほの温きかな
製材所うなり入道雲光る
村眠る羽二重餅のやうな雪
地吹雪の明るく何も見えない日
みかん箱ほどに切り分け雪下ろす
ががんぼの己追い詰めゐるばかり
大氷柱象牙のやうに反りたがる
少し血を分けてください曼珠沙華
カルメンと名付けし薔薇を放任す
別れとは永久に待つこと二つ星
言へぬこと言はぬこと増え日記買ふ
どろんこの靴散らばつて春近し


佐瀬はま代句集
『一日』(いちじつ)
2020/3/26刊行
ふらんす堂

◆第一句集[させはまよ(1954〜)]
序:西村和子
題簽:佐瀬康志
装画:佐瀬浩史
挿画:大塚友佳子
装丁:和兎
四六判フレキシブルバックカバー装
198頁

少年は一塊の熱七月来

十年一日の如し、と言うがはま代さんにとっての十年は
さまざまなことを経験し、学び
風のように走り抜けた歳月だった
これからの十年は
ゆっくりと自分の一歩一歩を確かめながら
はま代さんらしい表現を身につけてゆく、
そういう時代になってゆくだろう
(帯・行方克巳)

◆自選十句
白シャツの一群に夫見失ふ
まつ青な空へ捨てたる榠樝の実
老鶯の声みづうみを辷り来る
流氷や旅のベッドの軋みたる
木の実踏むわざと踏む悉く踏む
雪といふことばを教ふ抱きあげて
フリージア光のごとき水に挿し
首手首心もとなし走り梅雨
物乞ひの少女膝抱く片かげり
蝶ふつと消えて背高泡立草


くにしちあき句集
『国境の村』
2019/11/27刊行
ふらんす堂

◆第一句集
[くにしちあき(1949〜)]
帯:行方克巳
序:西村和子
装丁:和兎
四六判並製クータ・バインディング
200頁

国境の村の魔除けのたうがらし
勤勉な汗の匂ひとすれ違ふ

少女のころから フランス語とフランス文化にしたしみ、グローバルな視野を育ててきたちあきさん
日本の風土と生活に根を下ろした今、独自の感性とスタイルを備えたちあきさんの俳句が育ちつつある――
(帯・行方克巳)

◆行方克巳抄出
春風といそつぷ橋を渡りけり
マフラーと詩を贈らるる誕生日
寒夕焼け口中にふと鉄の味
迷ひつつ紋白蝶のまだ迷ひ
コクリコや恋知り初めし頃のこと
青胡桃ひしめき合つて尖がつて
栗割ればモンマルトルの匂ひ立つ
勤勉な汗の匂ひとすれ違ふ
国境の村の魔除けのたうがらし
群れながらてんでばらばら夜の金魚


吉田林檎句集
『スカラ座』
2019/8/29刊行
ふらんす堂

◆第一句集
[よしだりんご(1971〜)
帯:行方克巳
序:西村和子
装丁:和兎
四六判並製小口折装
204頁

初仕事去年の我よりメモひとつ

机上にある自分自身のメモは、初仕事として今日しなければならぬことーー。
明日への課題を日々の心に書き止めながら、吉田林檎の進むべき一歩一歩が見えてくる。
(帯・行方克巳)

◆自選十句
この紐をどこに通すやサンドレス
眼鏡の子存外疾し運動会
コート着る着ない無理やり着せにけり
笑ふこと悲しき夜なり雪催
白魚のどれも驚愕してゐたる
手を洗ふあぶくだらだら春の昼
水中花思ひはなれしときひらく
アイスコーヒー飲み干して働くか
まな板の裏まで濡らし西瓜切る
映画館出でて銀河の底歩む

御子柴明子句集
『子らのゐて』
2019/6/15刊行
ふらんす堂

第一句集
[みこしばあきこ(1945〜)
帯:西村和子
序:行方克巳
装画:御子柴徹朗
装丁:和兎
四六判フランス装カバー装
208頁

三十歳で途切れてしまった長男のアルバム。
その思い出とれからの母の思いを残したいと思い立って編まれた句集。
小児精神科医として俳句作者として喪失感と虚無感から立ち直る力を与えられたのは
新たな幼い命だった。
(帯・西村和子)

◆西村和子抄出
振り向けば雪嶺がまた別の顔
凧揚げて売りて故宮の秋日和
秋晴も秋風もガラスの向かう
屋根掴む氷柱魔王の指のごとし
冬の朝遺品の時計遅れ気味
雪片のとどまらず時とどまらず
炬燵から出よとばかりに電話鳴り
子らのゐし葡萄の粒のやうな日々
月朧ろ天上の子と酌み交はす
産み月の威風堂々嫁小春

パラソル句会合同句集
『海へ』
2019/3/19刊行
デザインエッグ(株)

パラソル句会10周年を記念して編まれた合同句集。
現会員26名、卒業生10名の計36名が参加の句集。

<巻頭>
子育ての日々は短し秋日傘
西村 和子

<会員作品>
野遊びの子は転ぶまで駆けてゆく
青木あき子

青田風一年一組をぬけて
飯干ゆかり

この先の十年いかに更衣
磯貝由佳子

巡礼の如し落葉の道ゆくは
井出野浩貴

ゐないのねこんなにさくらさいたのに
いわさき章子

子がまねて気づく口ぐせ福寿草
梅田実代

馴れ初めを聞き漏らすまじ冬籠り
大友紅蔵

校門に着くなり疲れ入学児
小澤佳代子

子の髪のなびけば春風のかたち
帯谷麗加

年の市小さき器ばかり見て
鏡味味千代

緑さす握手に力貰ひたる
笠原みわ子

春の宵花茶ゆるゆる開きゆく
加藤志帆

花火果て月をよるべの家路かな
巫 依子

卒園の朝の寝癖を直しやる
菊池美星

ほほゑんでゐるゑのころと言ひながら
黒岩徳将

ロッカーのずらり口開け春休み
國領麻美

探梅のいつしか探鳥となりぬ
小山良枝

吾子に買ふ片道切符風光る
志磨 泉

十字架は黄金比率麦の秋
島野紀子

からだごと入れてひとりの春炬燵
睡 睡

背番号叶はぬ子にも春の風
杉谷香奈子

赤蜻蛉まだ固まらぬガラスのやう
田中久美子

母を生みし里に生きよと山笑ふ
田中優美子

人の目を避けて西日を避けてキス
津野利行

老いてゆく東京タワー風信子
氷岡ひより

横断の手は真つすぐに若葉風
中川玲子

宿題は早寝早起き運動会
布川礼美

言ひ分に一理ありけり巣立鳥
乗松明美

いつもの席いつものコーヒー春深し
塙 千晴

なぜか夜なきはじめたり秋の蟬
林奈津子

美学とは無駄多きこと秋闌くる
藤田銀子

しぐるるや捜査本部の午前四時
富士原志奈

冷ややかやてのひらにとる化粧水
松枝真理子

母子手帳受けて大道夏兆す
森山栄子

朝顔の種折紙に包みけり
山﨑茉莉香

短日のまた読み返す手紙かな
吉田林檎

島田藤江句集
『泥眼』
2019/5/3刊行
角川書店

第一句集から十五年。
自らの病を受けとめ、身内や知己の死を受け入れ、いよいよ研ぎ澄まされた五感。
ある時は聞こえぬ声を聴き、形なきものを透視し、記憶の層の深みへ読み手を誘う。書痴を自認する文学への愛と孤独に裏打ちされたしなやかな人生観と潔い美意識に貫かれた第二句集。
(帯より・西村和子)

◆西村和子選十句
鳥曇銀座に潮の匂ふとき
ひとところ暗き青春茅花噛む
春愁の魚の記憶身に潜み
かりがねの空ゆくさまに踊るかな
水影の紺潔し燕子花
海底(うみそこ)のものの声聴く良夜かな
底冷えのしたしたしたと曼荼羅図
時雨忌のわが机上なる曠野かな
小説の恋を封じて枯野駅
おでん屋の親爺無口で客寡黙

難波一球句集
『八ヶ岳春秋』
2018/12/1刊行

黴臭き部屋の議論みな直球

野球を愛する一球さんの面目躍如たる一句
ーーー直球以外の選択はない。

花野去る妻はも一度振り返り

なつかしく彩り豊かな八ヶ岳山麓の日々。
振り返ればそこに愛ーーー。

(帯より・行方克巳)

◆行方克巳選十句
パソコンに一声かけて初仕事
立ち止まる盲導犬に桜散る
どけよどけよと顔上ぐる毛虫かな
黴臭き部屋の議論みな直球
白球の芯は夢なり獺祭忌
もう消えぬ雪の白さよ八ヶ岳
一呼吸置きて剪りけり白牡丹
本棚を遠しと思ふ春の風邪
花野去る妻はも一度振り返り
水よりも風が冷たし牡蠣割女

島野紀子句集『青龍』(せいりゅう)
2018/9/8刊行

◆第一句集
運動会カメラ向ければ背を向けて

なかなか意のままならない子供も、あるいは作者自身の一面でもあろうか。青龍の名に恥じぬ、自在の翼を広げて行って欲しい。
(帯より・行方克巳)

◆自選十句
黒帯が先に来てゐる寒稽古
寒紅を引き入院の吾子に噓
保つとは手を入れること彼岸寺
すかたんも胸張りてけふ卒業す
三月や話しておかねばならぬこと
薫風を味方にデュース制したる
星祭注文多き女達
陽に当ててやらねば夏期講習の吾子
紅組の母は赤着て運動会
町医者に育ち嫁ぎて葱刻む

小倉京佳句集『水のかたち』
(みずのかたち)
2018/3/20刊行

◆第一句集

転がつて踏みとどまつて芋の露
逃水の挑発一歩踏み出さん

教師として、また一人の女性として
日常に流されることなく踏んばることの大切さ――。
いまや京佳さんの掌中の玉となりつつある俳句ワールドにおいてこそ、
思い切った前進があるはずだ。
やがてはっきりと一筋の道が展けて来るに相違いない。
(帯より・行方克巳)

◆行方克巳抄出十句
学校の梅雨の廊下の粘土の香
踏んづけてこじ開けにけり栗の毬
微笑みつマスクの中に毒づきぬ
白墨の残りし指に胼薬
ぎくしやくとラジオ体操チューリップ
ゴールデンウィーク窓拭き床磨き
雀の子知りたがりやの首傾げ
片翼に気流を押さへ冬鴎
転がつて踏みとどまつて芋の露
逃水の挑発一歩踏み出さん