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西村和子第一句集
『夏帽子』
1983/5/10刊行
第7回 俳人協会新人賞受賞
牧羊社

降り立ちて又セーターをはをりけり
月見草胸の高さにひらきけり
食卓の下の日溜りシクラメン
鳥の如水辺に枯れてゐる物等
秋風の柱に凭れ読む葉書
チューリップ芽の正直に出揃ひぬ
手花火や見守られゐること知らず
偽善者の如銀行の聖樹かな
デージーや意地悪さうな兎の眼
冬を待つ静けさにあり今朝の海

~あとがきより~
句集を作るという事は、船を出すようなものだと思った。昨日までに作ったものしか積荷には出来ないのだ。ーーいつかは句集を作りたい。その時には今まで作ったもの、これから作るはずのものを沢山載せたいーー句集出版を遠い将来の事として夢見ていた私にとって、この当然の事が、ちょっとした発見だった。その事に気づいてからというもの、今を大切に、今を詠んで行くしかないのだと改めて思った。今、乏しい過去の積荷を載せて出航するこの船が、これからどんな軌跡を辿るのか、どこの港に迎え入れられるのか、或いは永遠に海を漂う事になるのか、気がかりな事ではある。が、船を見送る私には、今この時からの思いを、新たに詠み続けて行く事しか出来ない。
句集の題名は、先年「若葉」艸魚賞受賞の際、清崎敏郎先生から頂いた、
母と子の母の大きな夏帽子  敏郎
から頂戴した。子供が幼稚園に上がる以前、よく吟行に連れて出かけた頃の、思い出深い句だ。十八歳の頃から、いつも変わらず深いまなざしで見守って下さった先生に、心より感謝申し上げると共に、これからの精進を誓いたい。又、ともすれば怠けがちだった私を、自ら作り続けることで励ましてくれた、かけがえのないライバル達に、深く感謝する。
最後に、出版にあたってご配慮頂いた牧羊社の方々に、厚くお礼申し上げたい。