大花野基地のフェンスの彼方まで
中田無麓
「知音」2023年12月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2023年12月号 窓下集 より
「知音」2024年1月号 窓下集 より
「知音」2023年12月号 窓下集 より
「知音」2023年12月号 窓下集 より
「知音」2023年12月号 窓下集 より
落し文むかし洛中洛外図
遠雷や聞こえぬやうに捨て台詞
サングラス身も蓋もなきことを言ふ
汗ひとすぢ虫酸走るといふことの
彼と彼彼女と彼女巴里祭
巴里祭米寿のタップ踏みにけり
暑き日の一日了へたり一日老い
寝そびれし二人とひとり熱帯夜
林間に滲むがごとく松蟬は
梅雨寒の湯川湯気上げ暮れ急ぐ
筋雲の高し梅雨明近からむ
尾を旗と立てて小犬や草茂る
雨雲に圧されあたふた揚羽蝶
南風の波崩れんとして翠透く
調律の音の粒立つ夏館
チェリストの十指蒼白青嵐
鱧天と決めてくぐりぬ夏暖簾
身の丈の限りを抛り鮎の竿
父生きてをらばたつぷり鮎うるか
蝦夷蟬を誘ふごとく沼光り
青鷺の放心ときにこちら向く
縞太く肥えたり山の蝸牛
麦秋や自画像の耳まだ描かず
大夏木寂しき背中抱くごとく
梅雨の月喪心をまた呼び覚まし
冨士原志奈
恋人は演劇青年桜桃忌
小池博美
蚕豆や命の色にゆであがり
吉田しづ子
合歓の花山河や青をきはめたり
中田無麓
透けさうで透けぬでんでんむしの殻
山本智恵
かりそめの色に咲き初め七変化
山田まや
駅裏の吾が定点の青楓
森山栄子
時の日や犬にもありし腹時計
橋田周子
甚平に小さき甚平肩車
田代重光
翡翠を見たねと母の三度言ひ
小塚美智子
十二単見えざる雨に座をひろげ
山田まや
われとわがこころ頼めず桜桃忌
井出野浩貴
日当りてあめんぼの影巨大なる
中野のはら
白日傘胸の内にもふと浮力
志磨 泉
風車一基港の薄暑かきまはす
廣岡あかね
聴くうちに声入れ替はり百千鳥
磯貝由佳子
美術館夏うぐひすの迎へくれ
前山真理
母の日の吾に届きし一句かな
板垣もと子
中吊りのいつの間に増え夏めける
松枝真理子
街薄暑少女の肩に背に雀斑
佐瀬はま代
知音の仲間の中でも九十代で毎月投句を休まない人は作者の他に何人かおいでだ。長年選句をしてくると、そのことがどれほど難しい事かよくわかる。疫病流行の後、最近の危険な猛暑などがあり、高齢の方々は句会でお会いすることも難しくなった。
この句に出会って、作者の意気に感じ励まされる思いをしたのは私だけではないだろう。作者の長年にわたる茶道教授の緊張感、謡による身体の鍛え方なども大いにかかわっているだろうが、九十代になって「吾に百寿あるを信じ」と言えるは並大抵のことではない。誰もがそう信じていたいが、歳を重ねるに従って、まず自分の体がいうことを聞かなくなることを実感するものだ。九十代前半の作者にとって、百寿までは七、八年ある。今植えた木の実が芽を出し、すくすくと伸びていく様子を私たちも楽しみに待とう。
翡翠が飛来したところに出会うだけでも貴重なのに、飛び立った瞬間を描いて鮮明な印象を残した句。待ち受けていた人間たちを尻目に、「あばよつ」と言い残して飛び去った。翡翠の美しい姿を言わんとする句はたくさんあるが、こういう句は珍しい。この表現に作者の個性があらわれている。こうした思い切った句を、失敗を恐れずに作り続けてほしい。
浅草などの観光地で、外国人を乗せた俥夫の言葉が耳に入ってきたのだろう。「英語の無駄のなし」と言えるのは、英文科出身の作者ならではの誉め言葉だろう。「風薫る」という季語とも実によく響き合っている。英語が得意であればあるほど、だらだらと余計なことまで説明しがちだが、要領を得た小気味のいい英語だったのだろう。
「知音」2023年12月号 窓下集 より
「知音」2023年12月号 窓下集 より
「知音」2023年12月号 窓下集 より
「知音」2023年12月号 窓下集 より