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島野紀子句集『青龍』(せいりゅう)
2018/9/8刊行

◆第一句集
運動会カメラ向ければ背を向けて

なかなか意のままならない子供も、あるいは作者自身の一面でもあろうか。青龍の名に恥じぬ、自在の翼を広げて行って欲しい。
(帯より・行方克巳)

◆自選十句
黒帯が先に来てゐる寒稽古
寒紅を引き入院の吾子に噓
保つとは手を入れること彼岸寺
すかたんも胸張りてけふ卒業す
三月や話しておかねばならぬこと
薫風を味方にデュース制したる
星祭注文多き女達
陽に当ててやらねば夏期講習の吾子
紅組の母は赤着て運動会
町医者に育ち嫁ぎて葱刻む

西村和子第七句集『自由切符』
2018/5/30刊行

ポプコーン膝にこぼして春休み
光増しつつ白木蓮の花仕度
緑さす手書きメニューにハーブティー
鹿鳴くや茶粥の椀を置きたれば

2017年の365日を俳句と文章で綴る。ふらんす堂ホームページ『俳句日記』連載を書籍化。

◆シリーズ最新作
日々異なる季語を詠むことで、これほど日常を襞深く過したこともなかった。

3月8日(火)
光増しつつ白木蓮の花仕度

このあいだまで地味で瘦せた裸木だったのに、蕾がひとつ残らず膨らんで、一気にひらく日を今か今かと待っている。駅までの道がこの頃ほど楽しみなことはない。ある日いっせいに灯ともるごとく咲くのだ。

◆あとがきより
この一年ほど季節の移りゆきをこまやかに感じたことはなかった。日々異なる季語を詠むことで、これほど日常を襞深く過したこともなかった。六十代最後の年の何よりの記念になった。

小倉京佳句集『水のかたち』
(みずのかたち)
2018/3/20刊行

◆第一句集

転がつて踏みとどまつて芋の露
逃水の挑発一歩踏み出さん

教師として、また一人の女性として
日常に流されることなく踏んばることの大切さ――。
いまや京佳さんの掌中の玉となりつつある俳句ワールドにおいてこそ、
思い切った前進があるはずだ。
やがてはっきりと一筋の道が展けて来るに相違いない。
(帯より・行方克巳)

◆行方克巳抄出十句
学校の梅雨の廊下の粘土の香
踏んづけてこじ開けにけり栗の毬
微笑みつマスクの中に毒づきぬ
白墨の残りし指に胼薬
ぎくしやくとラジオ体操チューリップ
ゴールデンウィーク窓拭き床磨き
雀の子知りたがりやの首傾げ
片翼に気流を押さへ冬鴎
転がつて踏みとどまつて芋の露
逃水の挑発一歩踏み出さん

津田ひびき句集『街騒』(まちざい)
2018/2/3刊行

◆第二句集
バス停にバス待つやうに春を待つ

第一句集『玩具箱』
〈ふしだらといふ香水のあらまほし〉から、
さらなる新境地へ。

◆行方克巳抄出
誤診なら笑つて許す油照り
肉滅ぶごと鶏頭の朽ちにけり
バス停にバス待つやうに春を待つ
木馬にも銀のたてがみ風光る
裏窓も大阪の貌秋暑し
添ひ遂げるとは嗚呼けふも葱刻む
春色の海のしづくのピアス欲し
初夏や磨けば光る鍋やくわん
街騒の猥雑にしてあたたかし
蛇穴に入る母さんの胸豊か

前山真理句集『ヘアピンカーブ』
2017/12/30刊行

◆第一句集
雪竿ののぞくヘアピンカーブかな

「だいじょうぶか?」
「しっかりね!」
とヘアピンカーブからのぞいている雪竿は
真理さんに最も近しい応援団のご両親の声かも知れない
もちろん私もその一人――。
向後も真理さんらしい写生の味をいっそう深めていって欲しいと思う。
(帯より・行方克巳)

◆行方克巳抄出十句
さよならと言はずまたねと卒業子
春の鴨水面の綺羅を引つぱれる
旋盤の音のひきつる秋暑かな
見守るといふは難し葱刻む
梅雨の蝶草の匂ひを嗅ぎ分けて
雪しまきドイツトウヒの森を消し
父の忌の空を仰げば初燕
どこからも狙はれさうな巣箱かな
朝桜父の忌の母おしやれして
夢を見て糞して河馬の日永かな

志磨泉句集『アンダンテ』
2017/8/26刊行

◆第一句集
上手く笑へず上手く怒れず初鏡

泉さんの自画像である
それは、人間関係における
自己表現のむずかしさ――
しかし彼女のうちに備わった
音楽性は その俳句作品に
独自のリズム感をもたらしている
(帯より・行方克巳)

◆自選十句
視程五マイル初凪の地中海
上手く笑へず上手く怒れず初鏡
実朝忌ことばの力疑はず
一頁手前に栞春灯
吾子に買ふ片道切符風光る
南風を味方につけて棒倒し
帰省子のまづ弟のことを問ふ
同じことまた問ひかけて墓洗ふ
妬心とはかういふかたち曼珠沙華
あれが君さう決めて見る寒オリオン

小野桂之介句集『蝸牛』
2017/8/8刊行

学者であり教育者である顔とはちがう、表現者の表情。
夫であり父であり祖父である温和なまなざしとは別の、キラリと光る鋭い視点。
何事もてきぱきとおこたりなく進める有能な行動に、時折覗く諷刺と茶目っ気。
作者を知る人も知らぬ人も、読めば読むほど味わいの増す句集。
(帯より・西村和子)

◆西村和子選十句
ハンカチで煽ぐのんどの白さかな
一掻をがしやりと注ぎぬ蜆汁
鮎宿の壁行灯の女文字
長き夜やこのごろ妻の鼻眼鏡
席蹴つて赤き手袋わしづかみ
居眠るがごとし学者の初仕事
登校子悴む指を食らひけり
振り向いて小さく手を振り春の風
ダメといふことばかりして七五三
幕上がり奈良岡朋子毛糸編む

高橋桃衣集 
自註現代俳句シリーズ 12期21
2017/6/20刊行

ラムネ飲む釣銭少し濡れてをり
ファインダーに入り切れない花野かな
水底の空を駆け抜け寒鴉
ハンカチーフきつぱりと言はねばならず
いつまでもルオーに佇てる冬帽子
きしきしと月光がガラスを磨く
土地を売る机一つや梅雨晴間
シュレッダー紙食べつづけ夜長し
いつ見ても誰が描いてもチューリップ
新酒酌む句友といふはありがたく

西村和子著『清崎敏郎の百句』
2017/6/15刊行

◆俳句は足でかせぐものだ

蹤いてくるその足音も落葉踏む

落葉を踏んで歩く時、人は孤独感のうちにも、今、ここに在る自分の存在を改めて確認する。静けさの中で、この句はもうひとつの足音を聞いている。自分に蹤き従って歩む者の、落葉踏む音である。その足音も孤独の象徴と言えよう。創作の道を歩む師弟関係を思わせる句だ。その存在に気づいていても、待ってやったり、声をかけるでもない。隣り合う孤独を思うばかり。
句集『系譜』の掉尾に置かれた句。風生没後「若葉」の継承者として出版した句集の題名にも、その覚悟は表われている。

西村和子著『愉しきかな俳句』
2017/1/28刊行

医師、学者、作家、歌舞伎役者、落語家、CMディレクター、詩人……第一線で活躍する達人十五人と、自身の仕事について、人生について、俳句の魅力について、縦横無人に語りつくす。快活洒脱の対談集!

岸本葉子(エッセイスト)
奥本大三郎(仏文学者・昆虫研究家)
山本道子(料理研究家)
永田和宏(細胞生物学者・歌人)
間村俊一(装幀家)
太田和彦(デザイナー・居酒屋探訪家)
板東三津五郎(歌舞伎役者)
細谷亮太(小児科医)
小森邦衛(漆芸家・人間国宝)
増田明美(スポーツジャーナリスト)
ロバート キャンベル(日本文学研究家)
川上弘美(作家)
中島信也(CMディレクター)
古今亭志ん輔(落語家)
高橋睦郎(詩人)

計15名