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原 川雀 著・内村 信代 訳
対訳句集『俳句 その風景』
2020/6/1刊行
朔出版

原川雀・内村信代のコンビによる対訳句集・第二弾!

日本語と英語の二か国語で、俳句約70句と自解を紹介。
エッセイ「季語の本質と翻訳」(Nature of seasonal words “Kigo”and translation)、「薬師寺から唐招提寺へ」
(A walk from Yakushiji to Toshodaiji Temple)も同時掲載。

◆帯文より​
‶リビング”  から  ‶ダイニング・キッチン” へ

今でこそ様々な句が外国語に翻訳される機会が多くなったが、川雀さんの最初の対訳句集『天平の落書』は、かつて俳句の ‶リビング″へ外国の友人を招待するという画期的な試みであった。
それから15年、『俳句 その風景』は、俳句の心をより正しく伝達し、深いもてなしの心で、友人を彼の ‶ダイニング・キッチン″へ招くという、さらに一歩進めた企画である。彼をよく理解する信代さんの支えが大きいことは言うまでもあるまい。(行方克巳)


From the “Living Room” to the “Dining Kitchen”​

Nowadays, there are many opportunities to translate various haiku into a foreign language, but Senjaku’s first bilingual collection, “ Graffity of Tenpyou” was an epoch-making attempt to invite foreign friends to his “Living Room”. Fifteen years since then, “ Scenery of the Haiku” is a project that goes a step further, inviting friends to his “Dining Kitchen” with a deeper hospitality that conveys the heart of haiku even more.It goes without saying that Nobuyo, who understands him well, has supported his project greatly. (Katsumi Namekata)

 

◆本文より

盆提灯点れるところより暮るる

季語は「盆提灯」で秋。秋の初め頃、各地で死者の霊を迎える盆の行事が行われる。家々の玄関には死者への道標として提灯が吊るされる。次第に日が暮れ、町に夕闇が迫るころ、提灯に灯が点される。普通は提灯が灯ったところが明るくなるものだが、提灯の点る辺りから暮れ始めるように作者は感じた。灯がともることで、対比的に周りがより暗く見えるからであろう。

As they are lit up, surroundings of
the BON-CHOUCHIN becomes darker

The seasonal word is “BON-CHOUCHIN”of fall. They are lanterns that are lit during the BON event. Around the beginning of autumn, BON events are held in various places to welcome the spirit of the dead. Lanterns are hung at the entrances of the houses as a guide to the dead soul. As the sun goes down and the dusk approaches, the lanterns are lit. Normally, the place where the lanterns light up becomes brighter, but the author felt that other way. The surroundings appear darker by contrast with the lantern light.

知音代表 西村和子が、この度、第八句集「わが桜」を上梓しました。

西村和子 第八句集
『わが桜』
2020/8/3刊行
角川書店
花便り待つや京にも我が桜

ひそかに思い決めた「わが桜」――見ることが叶わなくても、心によみがえらせ、詠む。平成26年から平成31年までの句を収めた第八句集。

◆自選12句
流水の通奏低温夏館
たんぽぽの絮は吹くより蹴つ飛ばせ
水音は冬へ落葉の音午後へ
菠薐草の子ふたりに血を分かち
花便り待つや京にも我が桜
うき世より一寸浮きて梅雨籠
草の根の力を恃み七日粥
枯れてなほみ仏に夢見る力
恋人より恋心惜し革手袋
身の内の隙間風聴く夜の底
流氷のひそと寄せ来てひしと組む
若布干す虫養ひにつまみつつ

◆「あとがき」より
前句集以後七十歳までの作品を纏めた。そのうち平成二十九年の一年間は俳句日記『自由切符』に収めたので、この年の句は少ない。
心ひそかに私の桜と思い決めて、毎年見にゆく花がある。ひとつは終の住処と定めた多摩川のほとりの老木。夫と最後の花見をした桜だ。樹下の輪から抜け出て来た青年が、シャッター押しましょうか、と撮ってくれた写真が今も居間に飾ってある。翌年からは、ひとりで花に語りかけている。
今ひとつは夫の菩提寺、京都の金戒光明寺の山門の桜だ。墓参のたびに仰ぎ、十五年になろうとしている。いずれ私もこの地に眠り、満開の枝越しに京の町を眺めることになるだろう。
毎年夏を過ごす群馬県草津にも、私の桜がある。五月の連休が過ぎた頃、のびのびとした総身にようやく満開を迎える色濃い花だ。ここでも句を詠みかけることにしている。
ところが今年の疫病流行で、京都にも草津にも行けなくなった。多摩川の土手の桜は、はやばやと蕾をつけ、例年よりも長い間花の枝をさしのべてくれていた。訪ねることが叶わなかった桜を思いつつ、第八句集の題名とした。


加藤 爽 句集
『白鳥』
2020/3/25刊行
角川文化振興財団

◆第一句集
序:西村和子
装丁:大武尚貴

生きるべき土地と
愛しい家族への深い思いーー。
詩的情念はときに熱き血のごとくほとばしる。
(帯・行方克巳)

◆行方克巳選 十二句抄
風止めば雪道のほの温きかな
製材所うなり入道雲光る
村眠る羽二重餅のやうな雪
地吹雪の明るく何も見えない日
みかん箱ほどに切り分け雪下ろす
ががんぼの己追い詰めゐるばかり
大氷柱象牙のやうに反りたがる
少し血を分けてください曼珠沙華
カルメンと名付けし薔薇を放任す
別れとは永久に待つこと二つ星
言へぬこと言はぬこと増え日記買ふ
どろんこの靴散らばつて春近し


佐瀬はま代句集
『一日』(いちじつ)
2020/3/26刊行
ふらんす堂

◆第一句集[させはまよ(1954〜)]
序:西村和子
題簽:佐瀬康志
装画:佐瀬浩史
挿画:大塚友佳子
装丁:和兎
四六判フレキシブルバックカバー装
198頁

少年は一塊の熱七月来

十年一日の如し、と言うがはま代さんにとっての十年は
さまざまなことを経験し、学び
風のように走り抜けた歳月だった
これからの十年は
ゆっくりと自分の一歩一歩を確かめながら
はま代さんらしい表現を身につけてゆく、
そういう時代になってゆくだろう
(帯・行方克巳)

◆自選十句
白シャツの一群に夫見失ふ
まつ青な空へ捨てたる榠樝の実
老鶯の声みづうみを辷り来る
流氷や旅のベッドの軋みたる
木の実踏むわざと踏む悉く踏む
雪といふことばを教ふ抱きあげて
フリージア光のごとき水に挿し
首手首心もとなし走り梅雨
物乞ひの少女膝抱く片かげり
蝶ふつと消えて背高泡立草


くにしちあき句集
『国境の村』
2019/11/27刊行
ふらんす堂

◆第一句集
[くにしちあき(1949〜)]
帯:行方克巳
序:西村和子
装丁:和兎
四六判並製クータ・バインディング
200頁

国境の村の魔除けのたうがらし
勤勉な汗の匂ひとすれ違ふ

少女のころから フランス語とフランス文化にしたしみ、グローバルな視野を育ててきたちあきさん
日本の風土と生活に根を下ろした今、独自の感性とスタイルを備えたちあきさんの俳句が育ちつつある――
(帯・行方克巳)

◆行方克巳抄出
春風といそつぷ橋を渡りけり
マフラーと詩を贈らるる誕生日
寒夕焼け口中にふと鉄の味
迷ひつつ紋白蝶のまだ迷ひ
コクリコや恋知り初めし頃のこと
青胡桃ひしめき合つて尖がつて
栗割ればモンマルトルの匂ひ立つ
勤勉な汗の匂ひとすれ違ふ
国境の村の魔除けのたうがらし
群れながらてんでばらばら夜の金魚


吉田林檎句集
『スカラ座』
2019/8/29刊行
ふらんす堂

◆第一句集
[よしだりんご(1971〜)
帯:行方克巳
序:西村和子
装丁:和兎
四六判並製小口折装
204頁

初仕事去年の我よりメモひとつ

机上にある自分自身のメモは、初仕事として今日しなければならぬことーー。
明日への課題を日々の心に書き止めながら、吉田林檎の進むべき一歩一歩が見えてくる。
(帯・行方克巳)

◆自選十句
この紐をどこに通すやサンドレス
眼鏡の子存外疾し運動会
コート着る着ない無理やり着せにけり
笑ふこと悲しき夜なり雪催
白魚のどれも驚愕してゐたる
手を洗ふあぶくだらだら春の昼
水中花思ひはなれしときひらく
アイスコーヒー飲み干して働くか
まな板の裏まで濡らし西瓜切る
映画館出でて銀河の底歩む

知音代表 行方克巳が、この度、第八句集「晩緑」を上梓しました。

行方克巳第八句集
『晩緑』
2019/8/1刊行
朔出版

青葉雨 死もまた一身上の都合

「知音」代表の最新句集。「晩緑」とは、「新緑」すなわち初夏の若葉の緑に対して、終わりかけの緑を表す。人生の感慨を季語に託し、軽やかに詠いあげた第八句集。

◆自選12句
遠くより呼ばれて昼寝覚めにけり
致死量に足らざる鬱や秋かはき
狡猾な眼をして鮫のひるがへる
無味無臭而して無策冴返る
泥抽いて泥の光の蘆の角
茅花流し母のことその母のこと
万華鏡の中の秋風見てゐたる
柿一つ買ひ今生の秋一つ
鰭酒に舌焼き虚実皮膜論
都鳥水の火宅もありぬべし
北風やお日さまといふよきことば
立ち枯るる男たるべし荒野(あらの)打つ

◆「あとがき」より
「慶大俳句」に参加して、清崎敏郎師や、楠本憲吉、杉本零氏等の知遇を得て、俳句にのめり込んでから、またたく間に半世紀以上の歳月が過ぎ去った。
昭和、平成そして令和を迎えた今も、「季題発想」という私の作句信条は変わることはない。
また、俳句は「何を詠まなければならないのか」ではなく、「何をどう詠めばいいのか」であるという私の気持ちもは変わらない。
この度の句集名は「新緑」に対しての「晩緑」という心である。
もし、私の作品が人の心に届きにくいとしたら、それは私の表現力が至らぬためである。心して表現力を磨くことに励みたいと思う。

御子柴明子句集
『子らのゐて』
2019/6/15刊行
ふらんす堂

第一句集
[みこしばあきこ(1945〜)
帯:西村和子
序:行方克巳
装画:御子柴徹朗
装丁:和兎
四六判フランス装カバー装
208頁

三十歳で途切れてしまった長男のアルバム。
その思い出とれからの母の思いを残したいと思い立って編まれた句集。
小児精神科医として俳句作者として喪失感と虚無感から立ち直る力を与えられたのは
新たな幼い命だった。
(帯・西村和子)

◆西村和子抄出
振り向けば雪嶺がまた別の顔
凧揚げて売りて故宮の秋日和
秋晴も秋風もガラスの向かう
屋根掴む氷柱魔王の指のごとし
冬の朝遺品の時計遅れ気味
雪片のとどまらず時とどまらず
炬燵から出よとばかりに電話鳴り
子らのゐし葡萄の粒のやうな日々
月朧ろ天上の子と酌み交はす
産み月の威風堂々嫁小春

パラソル句会合同句集
『海へ』
2019/3/19刊行
デザインエッグ(株)

パラソル句会10周年を記念して編まれた合同句集。
現会員26名、卒業生10名の計36名が参加の句集。

<巻頭>
子育ての日々は短し秋日傘
西村 和子

<会員作品>
野遊びの子は転ぶまで駆けてゆく
青木あき子

青田風一年一組をぬけて
飯干ゆかり

この先の十年いかに更衣
磯貝由佳子

巡礼の如し落葉の道ゆくは
井出野浩貴

ゐないのねこんなにさくらさいたのに
いわさき章子

子がまねて気づく口ぐせ福寿草
梅田実代

馴れ初めを聞き漏らすまじ冬籠り
大友紅蔵

校門に着くなり疲れ入学児
小澤佳代子

子の髪のなびけば春風のかたち
帯谷麗加

年の市小さき器ばかり見て
鏡味味千代

緑さす握手に力貰ひたる
笠原みわ子

春の宵花茶ゆるゆる開きゆく
加藤志帆

花火果て月をよるべの家路かな
巫 依子

卒園の朝の寝癖を直しやる
菊池美星

ほほゑんでゐるゑのころと言ひながら
黒岩徳将

ロッカーのずらり口開け春休み
國領麻美

探梅のいつしか探鳥となりぬ
小山良枝

吾子に買ふ片道切符風光る
志磨 泉

十字架は黄金比率麦の秋
島野紀子

からだごと入れてひとりの春炬燵
睡 睡

背番号叶はぬ子にも春の風
杉谷香奈子

赤蜻蛉まだ固まらぬガラスのやう
田中久美子

母を生みし里に生きよと山笑ふ
田中優美子

人の目を避けて西日を避けてキス
津野利行

老いてゆく東京タワー風信子
氷岡ひより

横断の手は真つすぐに若葉風
中川玲子

宿題は早寝早起き運動会
布川礼美

言ひ分に一理ありけり巣立鳥
乗松明美

いつもの席いつものコーヒー春深し
塙 千晴

なぜか夜なきはじめたり秋の蟬
林奈津子

美学とは無駄多きこと秋闌くる
藤田銀子

しぐるるや捜査本部の午前四時
富士原志奈

冷ややかやてのひらにとる化粧水
松枝真理子

母子手帳受けて大道夏兆す
森山栄子

朝顔の種折紙に包みけり
山﨑茉莉香

短日のまた読み返す手紙かな
吉田林檎

島田藤江句集
『泥眼』
2019/5/3刊行
角川書店

第一句集から十五年。
自らの病を受けとめ、身内や知己の死を受け入れ、いよいよ研ぎ澄まされた五感。
ある時は聞こえぬ声を聴き、形なきものを透視し、記憶の層の深みへ読み手を誘う。書痴を自認する文学への愛と孤独に裏打ちされたしなやかな人生観と潔い美意識に貫かれた第二句集。
(帯より・西村和子)

◆西村和子選十句
鳥曇銀座に潮の匂ふとき
ひとところ暗き青春茅花噛む
春愁の魚の記憶身に潜み
かりがねの空ゆくさまに踊るかな
水影の紺潔し燕子花
海底(うみそこ)のものの声聴く良夜かな
底冷えのしたしたしたと曼荼羅図
時雨忌のわが机上なる曠野かな
小説の恋を封じて枯野駅
おでん屋の親爺無口で客寡黙