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小林月子句集『見返り峠』
2013/1/25刊行

甘んじて仕事人間啄木忌 月子
月子さんは何事にも一途で真っ正直な人だと思う。
「仕事人間」は、その一面である。
婿さんは馬鹿か利口か初笑 月子
そして、俳句という表現方法を手に入れたことで彼女の人生に、
ゆとりと楽しさが加わってきた。
「婿さん」に対する暖かい視線が、それである。
行方克巳(帯文より)

真ん丸の目をして木の実見せにけり
パソコンてふ化物を飼ひ梅雨寒し
ビール酌む夫の友達好きになり
歩くより遅い駆けつこ天高し
我が娘ながら水着のまぶしさよ
枯野行く黒犬のまだついて来る
春眠や覚めて物音一つなく
婿さんは馬鹿か利口か初笑
防人の見返り峠日脚伸ぶ
冷房を入れぬラーメン屋の団扇
甘んじて仕事人間啄木忌
おでん酒男も人の噂ばかり(行方克巳 選)

天野きらら句集『ウェルカムフルーツ』
2013
/1/13刊行

料理が得意な人は俳句も上手い
ありふれた材料の本質をよく知り
切りこみと切り取りが鮮やか
味付けに工夫がこらされ
仕上りも手際よく勢いがある
伝統を我がものにした上で
時には冒険もする
スパイスをぴりりと効かす
美味しいものを味わうように楽しめる句集
西村和子(帯文より)

春の馬水の力を得て跳ねよ
の腰に剣を佩く構へ
秋風や見知らぬ人に手が触れて
板チョコが食べたくなりぬ秋の空
紙燃やすほどの静けさ春の雪
瞼なき魚も眠れる春の雨
おーんおーん耳成山も青嵐
赤い秤青い秤やべつたら市
ラガーらの下唇が息を吐く
海の話してくれさうな大夏木
電線の傾いてゐる田植かな
からつぽの空を仰いで啄木忌(自選12句)

鈴木庸子句集『シノプシス』
2012/11/3刊行

シノプシスとはシナリオのあらすじ。
人生を意識した時俳句と出会った作者にとって、
一句一句は歳月の紛れもない本音。
句集は折々の思いを刻みつけた記念碑に似ている。
あるがままを、多彩に、思い切りよく披瀝した作品の数々は、
未知のシノプシスへとつながっていよう。
西村和子 (帯文より)

冬枯れの路地裏歩くことも旅
望月の真赭の道を湖にのべ
身に入むや十年留守の母の部屋
満々と水を湛へて蜻蛉の眼
白梅は錆び紅梅は褪せにけり
かたまつてゐて傷ついて青くるみ
それはもう光のかけら柿若葉
忘れ潮にも秋風のしじら波
桜えび入り海風のスパゲッティ
葱刻む後ろ姿の母は吾 (自選10句)

大塚次郎句集『揺るぎなく』
2012/9/27刊行

科学の知性と、俳句の感性。
教師の視線と、父親のまなざし。
まだ若い心と、すでに若くはない思い。
思いきった見たてと、老練な表現。
その豊かな幅は読む者を大いに楽しませてくれる。
西村和子(帯文より)

そら豆しかないそら豆があればいい
公魚やひかりが音をたててゐる
寒鯉の黒糸縅揺るぎなく
足跡の先に吾子ゐて秋の浜
山頂に生徒を数ふ雲の峰
吐く息をひとかたまりにラガー組む
縋るとも慈しむとも秋の蝶
受験子のマスクの四角張つたまま
雪渓の鱗あらはに横たはる
かさぶたになりかけてゐる冬夕焼
半袖をさらにまくつて運動会
満開の躑躅の色に疲れけり (本書より)

原田章代句集『遊』
2012/7/19刊行

この句集を原田芳雄に捧げます。―とあとがきにある本書は、一周忌に向けて上梓されたもの。五・七・五に込められた日記のような句集です。題字・写真・画は原田芳雄によるもの。

 

黒木豊子句集『雛あかり』
2011/1/15刊行

豊子さんの俳句には、雛の間のほの明りにも似た
やさしさと華やかさ、そして凛としたきびしさがある。
それは、彼女の人となりから自ずと醸し出される魅力なのだろう。
行方克巳 (帯文より)

蝌蚪の尾の生き抜く術を知つてをる
面差しのよく似て男雛眉の濃し
鶯にマイクロフォンのつけてある
十薬の涙のごとき莟あげ
蝉時雨暑を掻き立ててゐるごとし
扇づかひ時にせはしくゴヤを見る
歩みふと止め空蝉となりたるか
吹き溜りあれば馳せ来る落葉かな
カーテンを開けて貰ひて秋惜しむ
納め句座明日より主婦に徹すべく (自選10句)

原 川雀句集『青丹よし』
2010/11/13刊行

企業の四十五歳研修で俳句と出会った頃、
川雀さんにとって俳句は絶好の気分転換だった。
あれから二十年、俳句は最高の心の拠り所となった。
奈良における歳月が、その結びつきを深めたのだ。
西村和子 (帯文より)

様々の影及びけり春の水
畦を焼く唐招提寺煙らせて
山桜西行庵へ深し
きりぎりす戦争少し知つてゐる
行く夏の百済観音菩薩かな
体中の芯に火の玉秋立ちぬ
この秋の愁ひともなく阿修羅かな
笛の音の新薬師寺へ月の路地
金曜の彼彼女らに落葉降る
流れ星父に抱かれて眠る子に (自選10句)

馬場繭子句集『芽吹』
2010/9/28刊行

屈託のない無邪気な第一句集は、
俳句が幸福の文芸であることを思い出させてくれる。
美しいもの、美味なるもの、気に入りのものに囲まれて俳句を楽しむ姿は、
読む者の心をも明るく満たしてくれるだろう。
西村和子 (帯文より)

春燈や巴里の寵児の絵の暗く
一掻きの青海亀の涼しさよ
咲き初めて小心ならず冬の薔薇
にごりなき血の色のとんぼうに遇ふ
ためいきも華やぎにけり投扇興
初句会西洋畏るるに足らず
そら豆の莢にムーアの括れかな
父の日や彼のライバル今も父
初雪の予感ぴりつと唇に
寒紅や後の心を引き締めむ(自選10句)

金子笑子 句集『雪舞』
2010/9/23刊行

数へ日の本腰入れて雪の降る 笑子
老神温泉はなつかしく心安らぐ出湯である。
『雪舞』の作者笑子さんは、その老神を象徴するような人だと思う。
女将としての笑子さんにとって、雪はしたたかで、
あなどれぬ存在だろう。
しかし、一方ではその雪が、彼女に老神の風土に根ざした
多くの作品をもたらした。
行方克巳 (帯文より)

蛇神輿舁くといふより集りをり
板長の怒鳴つてをりぬ二日はや
初旅の夫の寝付きよきことよ
面白き程よく眠り風邪癒ゆる
数へ日の本腰入れて雪の降る
誰も居ぬ二階に音や雪の夜
お決まりのごとく四日の大雪よ
冴返る自問自答を繰り返し
あたたかや赤ちやん一人居るだけで
踊の輪立て直しつつ踊りけり (行方克巳 選)

鈴木淑子 句集『震へるやうに』
2010/6/16刊行

二十代の本音と呟き。
幼なさの揺曳も、早熟な感慨も、みずみずしい感性も、ひたむきな思いも、
変身を待つおののきに震えている。
ひらかれた俳句の扉から飛びたった言葉のひとつひとつが眩しい句集。
西村和子 (帯文より)

夏空を駆け上がるやうにして別れ
赤ちやんの口もと美人小鳥来る
時雨るるやのつぺらぼうのガーゴイル
しやぼん玉噴き上げパレードの鯨
心臓の震へるやうに蝌蚪泳ぐ
母さん母さんとくつついて軽鳧の子
まつすぐになんかなれないバレンタイン
飛びたくて飛びたくてむささびの進化
寒夕焼こんなカクテルあつたかも
春埃仕舞ひきれないものばかり (自選10句)