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知音 2023年11月号を更新しました


月の鏡  西村和子

月を待つ上方の幸つまみつつ

みちのくの人と浪花の月見酒

大阪の人ら足早月今宵

上るほど膨らみにけり今日の月

ビル街の底なる我も月の客

大阪の衢耿々月今宵

望の夜や亡き人の声はるかより

月の鏡にあの頃の我ら澄む

 

新宿の眼  行方克巳

月光のしみみに烏瓜の花

夕ひぐらしかなしかなしとしか鳴かぬ

死ぬ遊びおしろいばなの化粧して

白桃の隠し所の打身かな

鳥渡る新宿の眼はまばたかず

馬肥ゆる贅肉われはたのむべく

描線の鋼なすなり曼珠沙華

秋の浜蹼のあるごと歩む

 

錦帯橋  中川純一

未草大蛇と姫と祀られて

白日傘歩み佇み錦帯橋

秋暁やつぎつぎ目覚め牡蠣筏

手花火や賢こさうなる富士額

先導の祭着のはや着崩して

人いきれ浴びつつ花火仰ぎけり

小鳥来る顔の大きな孔子像

割り込んで意義あり/\法師蟬

 

 

◆窓下集- 11月号同人作品 - 中川 純一 選

マネキンの赤きシャツ欲り生身魂
小野桂之介

山の端を灯してゐたり遠花火
吉田しづ子

仲見世の風生ぬるく鬼灯市
林奈津子

尻尾まづ瑠璃を授かり蜥蜴の子
前田沙羅

我が里の自慢のひとつ十全茄子
菊池美星

水色と桃色の涼夫婦箸
馬場繭子

水掛けのバケツ叩いて渡御を待つ
廣岡あかね

母の浴衣似合ひて娘盛りかな
佐藤二葉

娘に譲る母の手縫ひの藍浴衣
吉澤章子

花火果て船続々と戻り来し
鴨下千尋

 

 

◆知音集- 11月号雑詠作品 - 西村和子 選

ICT研修眠し枇杷たわわ
井出野浩貴

海図読むやうに祇園会案内図
志磨 泉

身ぎれいに老いを養ひ牽牛花
藤田銀子

水琴窟屈めば蜘蛛の糸からむ
吉田泰子

みちのくの列車嘶く日の盛
中津麻美

かなぶんぶんやぶれかぶれにぶつかり来
立川六珈

乗りの良き客や上方夏芝居
三石知左子

梅雨深き思ひに香を焚きにけり
山田まや

力瘤孫と見せ合ふ宿浴衣
小野桂之介

端居して何もせぬこと落ち着かず
小倉京佳

 

 

◆紅茶の後で- 知音集選後評 -西村和子

ねこじやらし教師たやすく騙さるる
井出野浩貴

聞き捨てならない句だが、教師が騙されるのは生徒かその父母か。世間知らずの教師なら詐欺師にも騙されそうだ。この句の主眼は「ねこじやらし」という季語である。これによって、耳触りのいい言葉にころっと騙された自分の経験か、同僚のことを詠んでいるのだろうということが察せられる。
教師という職業は聖職だと私は思っているが、昨今の風潮では悪知恵に関しては立ち行かないこともあるのだろう。自嘲の句と取ってもいいし、一般論と受け止めてもいい。「ねこじやらし」は曲者だ。

 


覚悟して京へ乗り込む大暑かな
志磨 泉

ただでさえ暑い大暑の頃、盆地の京都へ行く覚悟を表明した句。「乗り込む」という表現に、吟行を楽しむとか物見遊山に行くのとは違う、心身の構え方が出ている。私の経験から、京、大阪は日本で一番暑い土地だと思う。天気予報で最高気温だけを見ると他の土地も負けていないが、京、大阪は夜も暑いのだ。そのことを知っている作者だからこそ詠めた句。

 

 

水琴窟屈めば蜘蛛の糸からむ
𠮷田泰子

「水琴窟」は優雅な庭の拵えとしてよく句材にされるが、美しく纏まっている句が多い。その点この句は、蜘蛛の糸が顔にからんだという鬱陶しいことを詠んで現実実がある。
水琴窟を楽しむには、屈んで耳を傾けねばならない。水音が聞こえたかどうかよりも、蜘蛛の糸がまつわりついた気持ち悪さを詠んでいることから、手入れの行き届いていない庭であることもわかる。