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2023年7月のネット句会の結果を公開しました。

◆特選句 西村 和子 選

突堤の釣り人に添ふ日傘かな
奥田眞二
作者は近くで釣りをしているのか、遠くから見ているのかはわからないが、突堤に日傘の人を見ることは珍しいので、目をとめたのだろう。
釣り人に「添ふ」で、釣り人と日傘をさしている人の関係が見えてくる。(松枝真理子)

 

風まかせなんぢゃもんぢゃの泡立ちぬ
荒木百合子
なんじゃもんじゃは諸説あるそうだが、一般的にはヒトツバタゴを指す。細かい白い花が固まって咲き、満開の時期は花序が膨らんでいるように見える。その花が風にまかせて吹かれる様子を「泡立ちぬ」と描いたところが、面白い。なるほど、白い花だけに風にかき回されて泡立っているように見えてくる。(松枝真理子)

 

髪高く結んでもらひ初浴衣
水田和代
髪を結うのではなく、結ぶ。また、結んでもらっているところから、幼稚園児か小学校低学年の女の子の姿を想像した。いつもは耳の下あたりで結わいているのを、この日はポニーテールにでもしてもらったのだろうか。そんなささいなことでも、女の子の心は高揚する。「初浴衣」はその年に初めて着る浴衣であるが、この子にとって生まれて初めての浴衣なのかもしれない。初々しい姿と季語がうまくリンクしている。(松枝真理子)

 

夏めくやパドル巧みにみぎひだり
宮内百花
中七下五の措辞がこの句の持ち味である。余分な言葉を使わず単純明快に表現されていて、カヌーがすいすい進んでいく光景が目に浮かぶ。読み手は上五の「夏めくや」でイメージを膨らませているのであるが、中七下五を経てまた上五に戻ってくると、「夏めく」がより具体的になる。(松枝真理子)

 

冷房やロボットのごと銀行員
田中優美子
駅前の近代的なビルに入っている銀行の店舗。寒いくらいに冷房をきかせているイメージがある。そんな場所で、スーツや制服姿で機械的な受け答えをしている銀行員が作者にはロボットのように思われた。ここで、会社員や事務員ではなく「銀行員」と具体的に描いたところがポイントである。また、季語が暖房では成り立たない。冷房が「効いて」いるのだ。(松枝真理子)

 

黒揚羽あをき光を曳いて消ゆ
松井伸子
黒揚羽の軌跡が、作者には光の筋のように見えている。さらにその光の色が青いと詠んだところに、詩心を感じた。その後、目で追っていたものの、瞬く間に見えなくなってしまったのであろうか。黒揚羽の神秘的な感じもよく出ている。(松枝真理子)

 

青葉寒疑ふことに疲れけり
田中優美子

 

豆ご飯ほのかに海の匂ひかな
小山良枝

 

艫綱をしゆるつと解き夏来る
木邑杏

 

信じたくなきことばかり青葉寒
田中優美子

 

山滴るダム湖は雲を流しつつ
小野雅子

 

卯の花の散るゆるやかな時間かな
小山良枝

 

惜しげなく雨に濡らして祭髪
(惜しげなく雨に濡らして祭り髪)
小山良枝

 

 

◆入選句 西村 和子 選

鯉幟風をはらみて船戻る
(鯉幟の風をはらみて船戻る)
木邑杏

夕焼や海風渡る能舞台
若狭いま子

手庇の内麦秋の照り返し
(手庇の中麦秋の照り返し)
松井洋子

晒さるる鳰の浮巣の頼りなし
(晒さるる鳰の浮巣の頼りなく)
五十嵐夏美

ケーブルカー窓少し開け木の芽風
(ケーブルの窓少し開け木の芽風)
藤江すみ江

落ちさうな鉢巻おでこ祭髪
(落ちさうな鉢巻おでこに祭髪)
箱守田鶴

草揺るるたびに湧きいづ夏の蝶
松井伸子

瑞兆のごとく白鷺一羽立つ
千明朋代

タップしてスクロールして夕永し
田中優美子

鉄塔の溺るるばかり椎の花
田中花苗

傾ぎつつ列車過ぎゆく浜は夏
(車体傾げ列車過ぎゆく浜は夏)
鈴木紫峰人

風薫る子らの自転車連なりて
五十嵐夏美

寝っ転がって白詰草の原っぱ
木邑杏

丁度よき場所にベンチや若葉風
五十嵐夏美

鞍馬より望む比叡よ八重桜
藤江すみ江

初七日やまづは供へし桜餅
(初七日やまづは供へて桜餅)
深澤範子

夏空へ機体ぐんぐん雲抜けて
小野雅子

ドア一つ残しジャスミン蔽ひけり
(ドア一つ残しジャスミン家蔽ひ)
田中花苗

異国語の飛び交ふ銀座花水木
(異国語の飛び交ふ銀座ハナミズキ)
辻敦丸

初夏や天神様の幣金色
(初夏や天神様の幣は金)
千明朋代

湯上がりのベランダ広し緑の夜
(湯上がりにベランダ広く緑の夜)
鏡味味千代

打水や左手に杖つきながら
小山良枝

長靴ぶかぶか蝸牛ぬらぬら
鈴木ひろか

水木咲くここが源流神田川
五十嵐夏美

また来ると約束をして子供の日
鎌田由布子

梅雨に入る夫とどうでもいい話
(梅雨入の日夫とどうでもいい話)
板垣もと子

かたつむり矜持の角をもたげけり
奥田眞二

桐の花瀬戸の島々見はるかし
巫依子

こころなし電車うきうき風薫る
松井伸子

盛りなる牡丹のどこかしどけなく
荒木百合子

新緑を分けてケーブルカー登る
(新緑を分けてケーブル登りゆく)
若狭いま子

彫像の少女の仰ぐ樟若葉
(彫像の少女仰げる樟若葉)
平田恵美子

風薫る論語素読へ声あはせ
小野雅子

船長に言はるるがまま鱚を釣る
(船長に言はれるがまま鱚を釣り)
宮内百花

春暑しエスカレーター点検中
田中優美子

波頭白く泡立つ立夏かな
田中花苗

子供の日漢字検定勉強中
鎌田由布子

花水木恋はいつから始まりし
田中優美子

気を抜けば誤字や脱字や梅雨に入る
小野雅子

ナポリタン発祥の店緑さす
飯田静

夏来る手足の長き少女らに
(手足の長き少女らに夏来る)
鎌田由布子

枇杷の実やいつの間にやら梅雨晴間
(枇杷の実のいつの間にやら梅雨晴間)
巫依子

むらさきの雨のそぼ降る岩煙草
松井伸子

紫陽花に紫陽花を積みさんざめく
板垣もと子

薔薇の雨島のドックに人気なく
松井洋子

掛け声の一転怒号荒神輿
(掛け声は一転怒号に荒神輿)
福原康之

引き潮の玉藻残せる立夏かな
田中花苗

辻に来て四方確かむ京薄暑
三好康夫

梅雨に入る薄墨色の鳥の影
(梅雨入りして薄墨色の鳥の影)
板垣もと子

マロニエの咲けどフランス遠くなり
(マロニエの咲けどフランスの遠くなり)
鎌田由布子

鳰浮巣小さし母鳥頼りなし
(鳰浮巣小さし母鳥頼りなく)
五十嵐夏美

冷房や目だけ笑みたる銀行員
田中優美子

金山の跡の坑道滴れり
若狭いま子

小満や木は心地よき風を呼び
松井伸子

囀りの絶好調は降る如く
三好康夫

海鳴りへ坂を下りゆく立夏かな
田中花苗

加勢する人得て実梅捥ぎにけり
水田和代

黝々と沖の一筋夏の潮
田中花苗

四階で遭ひし泰山木の花
箱守田鶴

薫風や路上ライブの鬚白き
田中花苗

夏つばめ堰の轟き豊かなり
(豊かなる堰の轟き夏つばめ)
松井洋子

 

 

 

◆今月のワンポイント

真夏の吟行

もうすぐ本州も梅雨明けですが、今年の夏も猛暑となりそうです。吟行に出かけたいと思っても、あまりの暑さに躊躇することもあるでしょう。
そんなときにおすすめなのが、デパートや美術館・博物館です。
とくにデパートには季節感あふれる商品が並べられていますので、季語をたくさん見つけられるはずです。疲れたら休むところもありますし、駅から近いのも好都合です。
もちろん屋外で吟行するのが理想ですが、叶わないときは場所を工夫してみると、意外と面白い句ができたりするものです。

松枝真理子