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師の墓のすべなく灼けてゐたりけり  清崎敏郎

「折口信夫墓」と前書がある。石川県羽咋市一ノ宮町に、折口父子の墓がある。
「もつとも苦しき たたかひに 最くるしみ 死にたる むかしの陸軍中尉 折口春洋ならびにその父 信夫の墓」。折口信夫が養子春洋の死を嘆き、自ら墓碑を選んで、昭和24年に建てた。4年後、自らもそこに埋葬された。
夜長会の旅行で、先生と共に墓参した。かつてはその墓石の半分近く白砂に埋もれていたと聞くが、昭和58年の夏には、台座まで顕わとなっていた。「すべなく」には、そのありように対する思いもこめられていよう。

「清崎敏郎の百句 西村和子著」より

猛暑なり生きてゐるさへ摩訶不思議  吉田 あや子

今年の暑さは記録にない激しさだ、など最近毎年のように言われているような気がする。作者にとってもそれは同様であったのだろう。よくこんな暑さに耐えられるものだ、と自分でも信じられない程なのだ。下五の「摩訶不思議」には作者のゆとりさえ感じられる。
「知音 平成30年11月号 紅茶の後で」より

白亜紀からジュラ紀へ冷房を抜けて  志磨 泉

地質年代で中生代はジュラ紀から白亜紀に続く。今から1億年以上昔のことである。この句は博物館での一句だろう。白亜紀のものを展示した部屋から、ジュラ紀の部屋に冷房の効いた空間を通り抜けて行った、ということ。何千万年をあっと言う間に通り抜ける、というおもしろさ。
「知音 平成30年11月号 紅茶の後で」より

ミッドタウン蹴つて逆立ち夏休み  佐竹凛凛子

ミッドタウンは最近開発された大型の都市。そのミッドタウンの建造物を蹴り上げるような勢いで子供が逆立ちをしたのだ。もちろん近くの公園の芝生の上である。省略がきわめて大胆な句である。
「知音 平成30年11月号 紅茶の後で」より

盆花や遺作の壺を満たすべく 西村和子

町まで出てゆけばスーパーもあるのだが、散歩のついでに寄る何でも屋が気に入っている。店先のバケツに盆花も活けてある。店番のおじさんも歳をとった。あちらも私をそう思っているだろう。毎夏やってきてもう20年になる。
(句集 『自由切符』(2018年5月刊行 ふらんす堂)より)