谷風に落花は空をめざしけり
小松有為子
「知音」2021年7月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2021年7月号 知音集 より
十本の鉛筆たのみ受験生
受験票すぐ皺々にしてしまふ
うすらひの欠片夕凍みそめしかな
しらうをや十全は足らざるごとく
寒きこと告げしや手話の五指胸に
わらわらと燃えて目刺の目なりけり
焼海苔をばりばりバレンタインの日
独酌のあての如くに春の雪
菜の花を分け多摩川の大曲り
菜の花や関東ローム層湿し
水彩のまじり気なしの花菜の黄
晴の日も長靴はいて花菜風
菜の花やけんか相手のゐなくなり
菜の花を挿し貧厨に壺ひとつ
菜の花を挿して明るむ流し元
菜の花の茎太々と水を揚げ
しやぼん玉抱きかかへんと跳ぶ子かな
水替へて目高にそつぽ向かれたる
すれちがひざまの眼差春寒し
冴返る刑死腑分けの場と標し
春ショールダルメシアンを引き連れて
早春や欅の木末雲を梳き
早春や笑めば雀斑のびちぢみ
早春や鏡よ鏡何と云ふ
下り立てば夫の待ちゐる雪の駅
吉澤章子
上客に帽子を取りてシェフ御慶
三石知左子
枯野ゆく松明高くかかげばや
井出野浩貴
初旅とて白寿を祝ひ我が許に
村地八千穂
月昇る羽子板市も店じまひ
江口井子
傘の雪しづらせ長き御慶かな
石原佳津子
天辺の星みつからぬ聖樹かな
森山栄子
しみじみと齢を思ふ明けの春
前田星子
竹箒立て掛けてあり大枯木
林 良子
おろかしき遠吠つづく寒夜かな
米澤響子
枯園にさつくりと割るカレーパン
米澤響子
ファーブルの貧しき暮らし冬林檎
井出野浩貴
冬銀河ルオーのイエス眉太き
島田藤江
冬晴やゆつくり歩くのは苦手
高橋桃衣
倫敦より明治は遠し漱石忌
藤田銀子
亥の子餅添へ借覧の書を返す
山田まや
島に生き早や十年や波の花
菊池美星
しぐるるやただいまと言ひ灯す部屋
吉田林檎
初神籤誰も日向に開きをり
中津麻美
今時の子はと言ひかけ咳けり
塙 千晴
「とくとく」は命の鼓動、「しんしん」は広大な夜空と静けさを表す言葉。擬音語とも擬態語ともとれるが、一見枯れ切った木々や動きのない木々の幹の奥に流れる樹液の音を聞きとった。星そのものは音を発しないが、しんしんと冷えてくるとか、しんしんと静まり返ったとか言う場合に用いる表現なので、聴覚ばかりでなく体感にも訴えてくる。
これも写生の一つなのだ。寒中の木々のありようや大気の冴えた様を言葉で描くとこのようになる。音読してみるとその効果が一層わかるだろう。
お父さんが亡くなってしばらく時が経ったが、その後の手続きや遺品の整理などを手掛けているうち、一番身近な存在であったはずなのに知らないことばかりだということに気付いたのだろう。その思いを語っているのが冬の月だ。煌々と冷たい光をはなっている冬の月は、他の季節の月よりも遙かに遠い存在だ。思えば私達は両親のことをどれほど知っていただろう。そんなことを読み手に思わせる力がある句だ。別に親子関係がうまくいってなかった訳でもない。むしろ父の思いは誰よりも知っていると思っていたし、その期待に応えても来た。だからこそ亡き今になって、「つくづく知らず」と思い知ったのである。
男性にとっての父を思う俳句と女性にとって母を思う俳句とは、おのずから違ってくる。この句は前者の代表的作品といえよう。
いかにも酒好き、美食家の句だ。自分で買ってきた酒ではなく、地方からおいしい地酒が届いたのだろう。これを楽しむには蕪鮓が一番だ。そう思って蕪鮓は買ってきたのだろう。しかしあくまでも主役は酒、蕪鮓はつまに過ぎない。味覚に訴えてくる心憎い作品だ。
「知音」2021年7月号 知音集 より
■2022年1月以降の同人句会開催日について
2022年1月から、同人句会の開催日は、原則として毎月第4土曜日になります。
2021年とは異なりますので、お気をつけください。
(次回の同人句会は、1月22日(土)です。詳細は、「知音」12月号でご確認ください。)
■2022年同人句会の兼題
2022年の同人句会の兼題は以下のとおりです。(8月の兼題が変更されました。)
1月「御慶」
2月「早春」
3月「山笑ふ」
4月「春潮」
5月「初夏」
6月「蜥蜴」
7月「滴り」
8月「水引の花」
9月「蟷螂」
10月「梨」
11月「菊人形」
12月「山眠る」
以上です。
2022年もどうぞよろしくお願いいたします。
同人句会幹事
『句集 晩緑』 朔出版 2019年刊 より
「知音」2021年7月号 知音集 より
「知音」2021年7月号 知音集 より
「知音」2021年7月号 知音集 より
「知音」2021年7月号 知音集 より
「知音」2021年7月号 知音集 より