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2025年8月のネット句会の結果を公開しました。

◆特選句 西村 和子 選

額紫陽花一輪残る青の濃し
飯田静
額紫陽花の季節が過ぎようとする頃、残る一輪は萎れかけていると思いきや、意外にも鮮やかな青を見せてくれました。さりげない句ですが、もののあわれを感じさせてくれます。(井出野浩貴)

 

時の日や水あふれてはあふれては
小野雅子
「時の日」は、天智天皇の御代に初めて漏刻(水時計)が設置された日にちなむのだそうです。制定自体は大正時代ですが。由来からいっても水に大いに関係しています。梅雨に入って水がゆたかになる頃の季感を響きあいます。時も水も流れ還ってくることはありません。「あふれては」の繰返しにそうした思いがこめられているかもしれません。(井出野浩貴)

 

公園の樹々うつうつと五月雨
鈴木ひろか
富安風生に「草木のよろこぶ梅雨をよろこばん」という句があるように、植物にとって梅雨は歓迎すべきものです。ところが、この句の場合、作者が屈託を抱えているためか鬱々としているように見えたのです。梅雨で昼間も薄暗い公園での感慨でしょう。(井出野浩貴)

 

贅沢は何もせぬ日のさくらんぼ
小野雅子
贅沢はせぬと言いつつも、店頭で見かけたさくらんぼの美しさに心が躍り、小さな贅沢をしようと買い求めたのでしょう。これがメロンや完熟マンゴーやシャインマスカットでは句になりません。さくらんぼのかわいらしさが魅力です。(井出野浩貴)

 

水馬跳ねて真鯉を躱したり
三好康夫
「水馬」が跳ねる瞬間をとらえました。小さな「水馬」にとって真鯉は潜水艦のように見えることでしょう。それでも逃げるわけではなく、さっと身を躱す、その姿を作者の眼は逃しませんでした。よく見て写生したことで、臨場感のある句になりました。(井出野浩貴)

 

どこまでも行ける青芝やはらかき
小野雅子
「青芝」に足が跳ね返される心地よさだけではなく、初夏の気持よい風に吹かれていることが伝わります。声に出して読んでみるとわかりますが、リズムのよさが心の弾みを表現しています。(井出野浩貴)

 

選挙カー細き手を振り街薄暑
中山亮成
今年の参議院の選挙期間中は記録的な猛暑でしたが、作品は作品として味わいましょう。「細き手を振り」から、比較的若く清新な候補者が想像されます。飯田龍太に「満目の草木汚さず薄暑来る」という句がありますが、この句の「薄暑」のイメージはそのあたりにあるでしょう。「猛暑」では政局しか考えない薄汚れたイメージになってしまいます。(井出野浩貴)

 

海風の抜け豪商の夏座敷
鈴木ひろか
たとえば、北前船などで巨富をたくわえた商人の屋敷などが思い浮かびます。「海風」と「夏座敷」の取り合わせが効果的です。もしかしたら今でも商いを続けているのかもしれませんが、むしろ江戸時代の賑わいが見えるようです。(井出野浩貴)

 

あぢさゐを待たずに逝つてしまひけり
(あじさゐを待たずに逝つてしまひけり)
片山佐和子
実際に故人は紫陽花の好きな方だったのでしょう。とはいえ、故人の好きな花ならばなんでも句になるわけではなさそうです。七変化の異名があるように、咲いている間に色を変えてゆく紫陽花は、異界の象徴にも感じられます。(井出野浩貴)

 

高原の触れむばかりの星涼し
若狭いま子
秋の「星月夜」「流れ星」は美しいですし、「冬の星」も澄み切っています。対して、「夏の星」の傍題「星涼し」には、ほんとうに涼しそうな響きがあります。この句は「触れんばかりの」によって夜の高原の空気感が表現でき、いっそう涼しい句となりました。(井出野浩貴)

 

◆入選句 西村 和子 選

子の飼へる金魚日に日に逞しく
(子の飼ひし金魚日に日に逞しく)
森山栄子

足跡の斜めに渡る植田かな
(足跡の斜めへ渡る植田かな)
宮内百花

四条下ル小さき暖簾の鯖鮓屋
奥田眞二

飛石を守るや川鵜立ちつくし
松井洋子

緑さすトンネル抜けて遠野郷
深澤範子

安宿の朝のカフェオレ夏つばめ
(夏つばめ安宿の朝のカフェオレ)
石橋一帆

西口を出ればいつもの大西日
(西口を出ればいつもの歩道大西日)
深澤範子

抜き手切る佐渡島まで泳がんと
(抜き手切る佐渡島まで泳ぐぞと)
箱守田鶴

スプーンで食べるのが好き冷奴
(冷奴スプーンで食べるのが好きで)
箱守田鶴

電話してをり浅利飯炊けるまで
板垣もと子

Tシャツを九枚干すや梅雨あがる
(外干しのTシャツ九枚梅雨あがる)
小野雅子

炎昼の木橋渡るや照り返し
(炎昼の渡る木橋の照り返し)
石橋一帆

夏至の朝うっすら見へし筑波山
穐吉洋子

荘内の植田海まで広ごりて
辻本喜代志

冷素麺薬味を少し変へ今日も
鈴木ひろか

象潟に鳥海山に夏の雲
辻本喜代志

夏至の雲ゆつくり窓を過りゆく
若狭いま子

仕舞屋の軒に掛かりて枇杷たわわ
鎌田由布子

八十路なほ桑の実盗るを止められず
(我八十路桑の実盗るを止められず)
千明朋代

追憶の生家の門の夏椿
(追憶の生家の門に夏椿)
若狭いま子

卯の花腐し中尊寺まで坂登る
(卯の花腐し中尊寺までの坂登る)
深澤範子

青葉風学士会館いよよ古り
千明朋代

青梅雨や外堀の木々生き生きと
飯田静

地に落ちて白の増したり沙羅の花
(地に落ちて白さ増したり沙羅の花)
小野雅子

樟若葉神社を抜けて通学す
(樟若葉神社を抜けて通学路)
五十嵐夏美