父の日や娘から届きし育毛剤
吉澤章子
「知音」2022年10月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2022年10月号 窓下集 より
「知音」2022年10月号 窓下集 より
「知音」2022年10月号 窓下集 より
「知音」2022年6月号 歌仙集 より
尺取虫一寸先も見えてゐず
逸りては堰かれては鳴る春の水
渡れとて飛石いくつ春の水
水迅し飛石を縫ひ芹濯ひ
この庭や山吹の谷蕗の海
雨脚の縦のち斜め松の芯
裏木戸を封じ木香薔薇盛り
朝刊に包みつややか芹の束
春荒の波にこと問ふ都鳥
空也上人
春なれや南無阿弥陀仏なんまいだ
行春や地獄巡りの万歩計
不意に五月日めくり怠けゐたる間に
六道の辻の片陰濃かりけり
大徳寺納豆一粒半夏生
夏めくや草木虫魚人われも
固まつて亀の子束子みたいやね
蛇坂の先に寺あり萩若葉
屈託も忖度もなく蠅生まる
赤心のありやと問へる菫かな
少年に少女駆け寄り花は葉に
春日傘かしげエッフェル塔見上ぐ
うららかや売物の椅子道に出し
行春やボート乗り場をただながめ
肩幅の歩きだしたり入学子
一夜にして街にあふるる春コート
井出野浩貴
温かき子の手を頼り梅見かな
村地八千穂
立子忌の月に寄り添ふ星一つ
小池博美
亀鳴くや月のうさぎに恋をして
野垣三千代
丁子屋の湖へ開けたる春障子
米澤響子
箱の中息して届く蕗の薹
鈴木ひろか
古き良き昭和の失せて年明くる
谷川邦廣
鶯や山懐に父母眠り
横山万里
前かごにスケッチブック春きざす
中津麻美
山積の本そのままに寒明くる
黒羽根睦美
まづ詣で懸想文売探しけり
山田まや
あるじなき屋敷のしだれざくらかな
井出野浩貴
裸木に凭れ二脚の高梯子
大橋有美子
手相見の人相あやし春の宵
松枝真理子
春昼の鏡の顔の他人めく
牧田ひとみ
節分の鬼を追ひかけ京ひと日
中野のはら
若菜摘む万葉人の血を継ぎて
佐瀬はま代
風光るチアリーダーの力瘤
前山真理
好きな色ばかりを摘まむ雛あられ
松井秋尚
毛糸編む絵を描くやうに色を替へ
山﨑茉莉花
「埋火」「炭」という季題は令和の現在、日常生活では親しみが薄れてきた。電気やガスによる暖房が普及して、千年前から用いてきた、炭で暖を取るということはほとんどなくなった。したがって炭火を消すのではなく、灰の中に埋めて火種を長持ちさせるためのものということも常識でなくなった。表面的には消えかけたように見えるものが実は燃えているということから、胸中の比喩として千年前から歌に詠まれてきた。作者は茶道教授なので、日常的に埋火に炭を足すというようなことを行っている。句の後半に至って、茶道を習いに来る弟子を待っている時の静けさや緊張感が伝わってくる。しかも「夜の稽古」である点に感銘を覚えた。作者は今年九十一歳である。こんな時、投句用紙に記された年齢や職業が鑑賞の手助けになるのだということを、皆さんも心に留めておいていただきたい。
食器洗い機というような味気ない家電品が、句の題材になるとは私も知らなかった。食器洗い機用洗剤がスーパーでは売っていない頃からこの恩恵を受けている私としては、はっとさせられた一句だ。最近息子の家に行って、食器洗い機の音が静かなことに驚いたが、まさか曲を奏でるような新機種が出たということではあるまい。
食後のひと時、食器洗い機に働かせてテレビを見たり家族と話しをしたりするひと時は、主婦にとってうれしい時間だ。そんな思いを「春の夜」という季語と「うたひだし」という描写に託した一句。いつもの機械の音がまるで歌っているかのように聞こえるのは、作者の幸福感を表していよう。
チアリーダーといえば応援団の花形で、バトンをくるくる回す動きやミニスカートの眩しい服装などに目が行きがちだが、この句は「力瘤」に焦点を当てた手柄。季語は動かないし、笑顔や溌溂とした若さの裏に、たゆみない練習によってできた力瘤も眩しい。このように一般的な視線ではなく、自分なりの発見と感動があることで、俳句は際立ってくる。
「知音」2022年10月号 知音集 より
「知音」2022年8月号 知音集 より
「知音」2022年9月号 知音集 より
「知音」2022年9月号 知音集 より
「知音」2022年9月号 知音集 より