朝焼を抜け白鳥の現はるる
影山十二香
「知音」2023年4月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2023年4月号 窓下集 より
海峡の秋色町を浸しゆく
登高や山毛欅の木霊に伴はれ
歩を止めて山毛欅の爽気を肺深く
みちのくの汽笛哀調芒原
赤とんぼ一輌電車からかひに
うつちやられ明日も働く稲刈機
船見えずなるまで傾げ秋日傘
鬼やんま乱世の魂の憑りつきし
地上絵のごとくに秋の美し国
島山の三角錐や鳥渡る
九十九折その山の秋水の秋
鰊群来㋥の畚背になじみ
秋夕焼アイヌメノコの血色さし
雪螢ひとりでもいいひとりがいい
吾こそは葦原醜男葦枯るる
とことはの座礁余儀なく草の花
宵闇の小腹にひとつカンロ飴
秋風を待つフランネルシャツ合はせ
北 海 道
あをあをと秋蒔小麦雨に濡れ
廃坑や噴き出してゐる霧衾
雁渡るわたる遥かに利尻岳
泥炭野とは葦の穂のどこまでも
雁渡る男の猪首仰がしめ
立枯るるまま億万の葦傾ぎ
軍国少女たりし日遠く終戦日
江口井子
穴の数ほどには鳴かず庭の蟬
石原佳津子
非常階段かなぶんが死に蟬が落ち
井出野浩貴
幼子はいつも小走り秋桜
影山十二香
穏やかに暮れたる二百十日かな
山田まや
霧深し天下分け目の古戦場
小島都乎
螢狩水の匂ひを辿りつつ
小山良枝
レリーフの智者を仰げば風さやか
小倉京佳
生くること試されてゐる残暑かな
前田沙羅
農捨てて二百十日の闇濃かり
吉田しづ子
涼新た働く女眉の濃く
牧田ひとみ
渋滞のニュース眺めて盆三日
高橋桃衣
赤とんぼ弧を描くてふことのなく
井出野浩貴
梅雨明の烈日情け容赦なし
藤田銀子
昼顔の吹かるるままの心地よく
山田まや
露草を卓にけふよりまたふたり
石原佳津子
死者も又言葉交はせり盆の墓
折居慶子
あきらめて少し老いたり夏の果
松枝真理子
つづくりも除染も済ませ萩の声
岩本隼人
中洲には中洲の平和猫じやらし
米澤響子
台風の接近を気にしながら車を運転しているのだろう。ワイパーが加速するということは、雨脚が激しくなったことを示している。カーラジオで聞いている台風の進路予想も数時間おきから一時間置き、数十分置きという具合にどんどん加速してきた。この表現にはスピード感があり、危機感も伝えて巧みだ。
星野立子の、
蓋あけし如く極暑の来たりけり
という句を思い出す。昨日までじめじめとした雨が続いていたのに、急に暑くなるということがある。梅雨明け宣言も間に合わないような自然界の動きだ。作者には突如晴れ上がった夏の気候が、このように聞こえたのだ。「草木虫魚」は自然界の生きとし生けるもの、しかし虫以外は声は立てない存在だ。その草や木や魚が大音声をあげているということは、詩人には伝わる。雨に打たれておとなしく潜んでいた生き物たちが梅雨明けと同時に喜びの声を発しているとは、同じ生き物として共感を覚える。
昼寝から覚めたときの現実との違和感を表した句。九十代の作者は一人暮らしだが、昼寝の夢の中では子供時代の誰彼や、子育て時代の子供たちなどが出てきたのだろう。目が覚めて何かの音や気配を感じ取ったのかもしれない。現実の自分の境遇や状況を改めて思い直すと、誰もいるはずはないのだ。「なかりけり」の詠嘆は人生の感慨にも通ずる。この言い回しにこめられた心情を読み取りたい作品。
「知音」2023年4月号 窓下集 より
「知音」2023年4月号 知音集 より
「知音」2023年4月号 知音集 より
◆令和5年9月2日(土)梟の会の参加者の一句◆
墓洗ふほんたうに父逝つたのか
北村季凛
鴫群るる満ちはじめたる潮のきは
佐野すずめ
つぎつぎに家電こはるる残暑かな
(一斉に家電こはるる残暑かな)
稲畑実可子
みんみんのやけくそみんみんみんみんみん
(みんみんのやけくそに鳴くみんみんと)
田中優美子
翼あらば秋天へ子の旅立たむ
(翼あらば秋の空へと子は消えむ)
宮内百花
ゆつくりと雲流れけり涼新た
松枝真理子
赤坂に三つ編み少女涼新た
井出野浩貴
「知音」2023年4月号 知音集 より
「知音」2023年4月号 知音集 より
「知音」2023年4月号 知音集 より
「知音」2023年4月号 知音集 より