ゆく春の永劫瞑き光堂
西村和子
『句集 心音』 角川書店 2006刊 より
客観写生にそれぞれの個性を
『句集 心音』 角川書店 2006刊 より
『句集 阿修羅』 角川書店 2009刊 より
『句集 自由切符』 ふらんす堂 2018刊 より
「知音」2018年7月号 窓下集 より
鳥雲に入る新宿の目に涙
この池の一羽と一人春時雨
残されし鴨の水尾ひく光かな
振り返る他人の空似沈丁花
何か建つまでのたんぽぽ黄なりけり
町空の汚れ易くて花辛夷
末黒野の一番星すぐ二番星
根の国の波のざぶりと蘆の角
うつし世の憂ひは去らず西行忌
円位忌の月の鏡の曇りなき
初蝶の残像のなほ光撒く
返稿をいちにちのばし春寒し
しんと咲き増ゆる今年の桜かな
ひと夜さの桜隠しを目のあたり
せつせつと桜隠しのささやくよ
我が窓を目がけ落花か雪片か
故郷の長兄の逝き年つまる
千葉美森
森に棲むものとわかちて冬の水
井出野浩貴
女正月やんちや盛りも加はりて
小池博美
隠るるも美徳なるらむ竜の玉
植田とよき
足止めの豪華客船春寒し
前山真理
人見知りされて泣かれてお元日
井戸ちゃわん
寒鴉タワーマンション縫うて飛び
帶屋七緒
鶯餅食うて男の生返事
影山十二香
ビーナスの生まれし海の寒夕焼
岩本隼人
都鳥群れ舞ひ築地明石町
島田藤江
冴返るルビンシュタイン聞く看取り
栃尾智子
早春や子にオムライス母美人
中川純一
天神下の魚屋に寄り梅日和
中野トシ子
唇の動き読めたり春の夢
小沢麻結
年寄の一つ年取る雑煮かな
立花湖舟
梅咲いて死んでしまつたやうな家
原 川雀
微笑みに返す瞬き水温む
馬場繭子
薄氷光となるをためらはず
櫻井宏平
暴雪のその前ぶれの空真青
増田篤子
上の子のねび勝りたる御慶かな
前田沙羅
美しく死化粧をほどこされ口紅をさして貰ってちんまりと横になっているお母さん。生前、それもこの10年程のことは色々と智子さん自身から聞かされていたのだが、とても自由闊達に日常を、わが時間を生きて来られた人のようである。彼女の海外旅行の話など、例えて言えば斎藤茂吉の奥さんみたいだねなどど楽しく聞いたものである。この何年かは、ずいぶん智子さんを頼り切って、智子智子というような毎日だったように推測する。そのお母さんが今、本当に安心しきった表情を浮かべて作者の前に横たわっているのである。
句会の前などに、提出句が出来てしまうと一杯ひっかけて来る人が結構いるもので、それが顔に出なければいいけれど、作者のように、それほどの量飲んでいなくても一目でそれと知られる場合がある。少し改まった会議などは自分でも不都合だと思うのである。顔に出る、といえば、心中穏やかならざる時など、私などすぐにそれが態度に出てしまう。すこしのらりくらりとして自分を制御しなければと思うのである。
雛を売っている所ではあるが、何段飾とかいう本格的なのではなくちょっとした小さな雛とか、紙製のとかを売っている店である。作者もはじめからそういうきちんとした雛を買うのが目的でそこに来たわけではないので、色々な売場を覗いているうちに折しも雛の節句をひかえた頃というので、ひとつコーナーに雛人形が置いてあり、その一つの紙雛に目を止めたのである。
もしお母さんが一緒だったら間違いなくこの可愛い紙の雛人形を買うに違いない、とそう思ったのである。
「知音」2018年7月号 窓下集 より
「知音」2018年7月号 窓下集 より
「知音」2018年7月号 窓下集 より
「知音」2018年7月号 窓下集 より
「知音」2018年7月号 窓下集 より