糠蚊てふこんな小さな命かな
御子柴明子
「知音」2020年8月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2020年8月号 知音集 より
知音」2020年8月号 知音集 より
「知音」2020年8月号 知音集 より
「知音」2020年8月号 知音集 より
「知音」2020年8月号 知音集 より
「知音」2020年8月号 知音集 より
町並と育ちあめりかはなみづき
木から木へ風を手渡し花水木
門川がはこぶ落花も夕づきぬ
蘂隠しあへず吹かるる白牡丹
葉づくろひをさをさ風の白牡丹
咲き重り明日は崩るる白牡丹
パルチザン映画序幕の揚雲雀
自転車に久しく乗らず風薫る
聞く耳を持たぬ治聾酒ねぶりけり
序の舞の序の一指の春憂ひ
花の雨話どつちに転んでも
砂時計いくたび返しても日永
伝法院閉したるまま花は葉に
目高より驚き易き子なりけり
目高の眼ごみのごとくにさんざめき
目高飼ふ男絶滅危惧種にて
羽外れさうに震はせ雀の子
桜草思ひの丈の鉢あふれ
つつじ咲き盛り給食通用門
遅咲きの一樹のけふの花盛り
花冷に加へて風の出てきたる
花は葉に馴染みのワイン独り酌み
目高にも娘盛りのあらば今
大夏木翼下男子も女子も容れ
周遊の船の汽笛か初諸子
野垣三千代
こつち見る鏡の視線春愁
松井秋尚
山茱萸を貧者の灯とも華燭とも
中田無麓
アクリル板向かうにマスク受験生國
國領麻美
夫留守の厨事せぬ日の永き
𠮷澤章子
早春の光を廻す水車かな
西山よしかず
目を凝らし風やみし時海胆を突く
菊池美星
アルミ梯子するする伸ばし春立てり
前田沙羅
余寒なほ迷ひ込みたるユダヤ街
藤田銀子
長城に立つや飛燕のはるかより
福地 聰
蠟梅の蕾炸裂したりけり
谷川邦廣
人死して髭剃られをる朧かな
井出野浩貴
初夢に会ひたるは亡き人ばかり
山田まや
藁茸の色滲みたる氷柱かな
吉田泰子
誰からも遠き処よ犬ふぐり
志磨 泉
「さぼうる」のテーブル小さき春愁
中津麻美
薄氷へ風の細波回り込み
大橋有美子
いづれまた乱となるべし初桜
中田無麓
着ぶくれて財布の小銭まだ出せぬ
影山十二香
桜草十代の母健気なる
三石知左子
隠喩の句だが、金縷梅の咲き様を稲妻を束ねたようだと見た点が際立っている。春になってまず咲く花だから、「まんさく」だという説もあるが、花とは思えないような形をしているので、紐のようだとか針金のようだとかいろいろな比喩を見かける。
この句の場合は天体の稲妻を想起した点がいい。稲妻という現象は稲の穂孕みに関わりがあるそうだ。科学的な証明はさておき、季節の移り行きに植物の花や実が大きな影響を受けているという直感は鋭い。作者は理系の人だから、何か科学的な知識をお持ちかもしれない。
疫病流行の今、誰もが抱えている危機感ではある。作者の年齢が八十代後半であることを考え合わせると、いつまでもお元気なようだが実感であることが伝わってくる。知音の句会に毎月参加なさる八十代の中で、一番お元気で作品も刺激を与えてくれるまやさんだ。しかし今日は元気でも、この健やかな心身がいつまでこのままであるかという思いは、いつも抱いておられるのだろう。
「菠薐草」という季題が、実に生き生きとしていて好ましい。年齢に拘らず、冬も鮮やかな緑は私たちの生きる力を授けてくれる野菜だ。
「句敵」というと不穏な響きがあるが、この場合の敵は親の敵とか敵討ちの意味ではなく、ともに切磋琢磨して刺激を与えあう存在を意味する。口や顔に出すことはなくとも、心の中に句敵の存在はあってほしいものだ。句会の場でも、毎月の知音集の頁でも、句敵を意識している人は成長する。
成績に一喜一憂するというのではなく、自分にとっての句敵は誰だろうと思いを巡らせてほしい。句敵の作品が見られない新年号は、作者にとってもの足りないものだったろう。
『句集 無言劇』 東京美術 1984年刊 より
「知音」2020年8月号 窓下集 より
「知音」2020年8月号 知音集 より