赤とんぼ家紋のごとく背にとまり
西山よしかず
「知音」2021年12月号 窓下集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2021年12月号 窓下集 より
「知音」2021年12月号 窓下集 より
うちなびき草も青田もおけさぶり
峠越島にもありて花さびた
炎天を行く癋見がほ仏がほ
鳶の笛ひいよひよろと薪能
海山の間昏れ切り薪能
忘れ草咲いて忘れぬことひとつ
波音のとんどとんどと夏障子
鬼太鼓の里のいよいよ緑濃し
関ケ原越えていよいよ雲の峰
酌み交はしをるうち暮れぬ川床涼み
御神水なみなみ準備鉾を待つ
先触れの白鷺一羽鉾巡行
鉾巡行大路の緑突き抜けて
神宿りたり復活の鉾頭
朝日燦大船鉾の龍頭に
大船鉾仰げば雲の退りけり
鰻重の方寸のまづ好もしく
兄事する人と鰻重並べ食ぶ
狼狽のごとき滴りたてつづけ
つんつんと一人前の目高の子
落としたる句帳たちまち蟻が検見
炎天や羊の群れが道塞ぎ
メロン切り父と娘の時戻る
ちよんちよんと文字摺草を描く絵筆
寛解の手足のびのび菖蒲風呂
黒山茂兵衛
晋山の散華さながら初夏の蝶
巫 依子
羅や今日一日は私の日
御子柴明子
麦秋やかなたに光る鳰の海
江口井子
ハンカチのアイロン掛けは好きな家事
小倉京佳
青葉昏ければ血潮の鎮まらず
井出野浩貴
時流には逆らはず生き昭和の日
折居慶子
あたたかや妻を励ます嘘少し
井戸村知雪
領事館跡を離れず黒揚羽
くにしちあき
腹の虫おさまるまでの草毟り
小池博美
園丁の去りジャスミンの香の残り
牧田ひとみ
魚の名訊き返しては島焼酎
藤田銀子
梅雨寒し寒しと母が又羽織る
影山十二香
緑蔭に坐す緑蔭に解くるまで
井出野浩貴
面差しの似てきし姉妹さくら餅
島田藤江
ふやけをり梅雨の茸も日輪も
高橋桃衣
薔薇の花疎みて第二反抗期
中津麻美
柏餅買うてアップルパイも買ひ
中野のはら
町医者の転勤知らず燕来る
島野紀子
網戸越し我も叱られゐるごとし
𠮷田林檎
水遊びの情景は言うまでもなく、子供達が楽しそうに水を掛けあっているのだが、その子供達はまだ親の手を離れていない年齢ばかりだ。子供達の動きを描いているのだが、ふと気がつくとその子の母親もいつしか夢中になって、水の中に入っている。当然若い母親だから「スカートたくしあげ」という情景はどきりとさせる。
普通は子供の動きに焦点を当てるのだが、子供を連れて来た母親を描いた点で目新しい。当の本人は子供の世話に夢中になっているが、客観的な視線には眩い。
奥の細道の随行者として「奥の細道随行日記」を遺した河合曾良は信濃の出身だったが、壱岐勝本で客死し、その墓も当地にあるという。壱岐を訪ねた折の作であろう。九州本土から離れたこの島は、元々壱岐の国であった。俳人にとっては曾良の墓に心惹かれる。
この句は墓を訪ねたというよりも、遠望の作であろう。「とりわけ青葉濃きあたり」の描写はあるがままの写生であるが、曾良に寄せる思いの濃さも語っている。
笑い声が聞こえてくるというのだから、声が届かぬほどの大河ではないだろう。春の陽気に誘われて、人々が川岸を散歩したり野遊びを楽しんだりバーベキューをしたり、という光景を想像した。若者達のグループから笑い声が起きた。川のこちら側でも同じような声が沸き起こっているに違いない。
そんなとき、此岸にも彼岸にもと両方描くのではなく、向こう岸の声に焦点を当てたことは巧みだ。空間の広がりや川の幅、囀が聞こえる空の高さなど描くことになったからだ。こんな光景に出会うと、人の心も明るくなる。
「知音」2021年12月号 知音集 より
「知音」2021年12月号 窓下集 より
「知音」2021年11月号 窓下集 より
「知音」2021年12月号 知音集 より
「知音」2021年12月号 知音集 より
「知音」2021年12月号 知音集 より
「知音」2021年12月号 知音集 より