山笑ふ奥の飯豊のまだ真白
川島みなみ
「知音」2022年7月号 知音集 より
客観写生にそれぞれの個性を
「知音」2022年7月号 知音集 より
「知音」2022年7月号 窓下集 より
「知音」2022年7月号 窓下集 より
「知音」2022年2月号 知音集 より
「知音」2022年6月号 知音集 より
「知音」2022年7月号 知音集 より
「知音」2022年3月号 歌仙集 より
十代の頃から詩文の創作を続けてきた著者。師の西村和子は〈蝶生る愛さるること疑はず〉の句を挙げ、「こうした本質に迫る句が詠めるのは、写生を怠らなかった証である」と評す。鋭い洞察力が詩にゆたかな発見をもたらす「知音」同人の第一句集。
◆帯より
AIが鐘撞く寺の蟻地獄
人工知能を駆使して鐘を撞かせるような時代性を十分認識しながら、一方では蟻地獄的存在を確信する『短篇の恋』には、硬質の抒情ともいえる歯切れのよいアイロニーが随処に見られる。
見えている現実と、見えない真実とを嗅ぎ分ける鋭敏さが銀子さんの身上ともいえるだろう。(行方克巳)
◆行方克巳選 10句
初仕事ペン一本の矜恃もて
正解の欲しき十代ソーダ水
浮輪積む店先掠め路線バス
待ち合はす終着駅の大西日
西鶴忌出合ひ頭といふ恋も
ヴェルレーヌ詩集背表紙秋の色
喧嘩売るやうにもの売る市師走
気の利いた嘘聞かせてよ春の宵
AIが鐘撞く寺の蟻地獄
うさんくさいもの輝かせ夜店の灯
◆あとがきより
表題「短篇の恋」は今回収録した句の文言からとった。壮大な長編小説は書けなかったがしかし、どんな長編にも劣らないだけの、言葉に対する恋慕は俳句でも示せるのだという自負を込めたつもりである。この思いが少しでも伝われば幸甚である。
(藤田銀子)
愚かなる人類に年改まる
身の軋み壁の亀裂も寒に入る
真夜覚めて微光不気味や寒の内
負けつぷり潔きかな初相撲
弓なりに堪へあつぱれ初相撲
破魔矢受く疫病三年祓ふべく
練るほどに白味噌艶冶小正月
さきがけの白梅五粒陰日向
氷りけり風波のその細波も
下剋上よりも逆縁雪しづり
着膨れてマスクのうへの鼻眼鏡
年寄の嫌みなか/\着ぶくれて
着ぶくれてこの世せましと思ひけり
初夢の終り△ 〇 ▢
血の管を滌ぐ寒九の水をもて
寒の水ほんたうはこれが一番うまい
初詣般若心経漏れ聞こえ
獅子舞のすはと伸びしが一睨み
泣き黒子ばかり目を惹き初映画
梅早し見えてきたりし待乳山
人日の妻に購ひたる肌守
パエリアを請はれ俎始かな
鰻屋の壁の羽子板ひとつ殖え
春近き日の斑ころがり心字池
リヤカーの二人子下ろし大根乗る
島野紀子
新海苔や炙り上手と夫おだて
池浦翔子
ていねいに遺影を拭くも年用意
米澤響子
秋深し猿の腰掛席二つ
井戸村知雪
みちのくに風の咆哮鎌鼬
小野雅子
古セーターまとひて心さだまれる
井出野浩貴
暮るるまで枯野に居りて枯野詠む
山田まや
諳ずる東歌あり山眠る
前田沙羅
薄切りの夕月色の大根かな
山本智恵
下総の土塊荒き冬ひばり
吉田しづ子
麓まで葡萄畑の連綿と
谷川邦廣
隧道を二つ抜け冬近づきぬ
藤田銀子
木枯に幟はためく「にぎわい座」
國司正夫
木の葉髪近頃夫と意見合ふ
くにしちあき
数へ日の神主ベンツ降りて来し
佐貫亜美
羽子板市テレビカメラは美人追ひ
小池博美
行列に鳩の割り込み十二月
吉田林檎
眼鏡外して秋の声聴き止めむ
山﨑茉莉花
落葉寄せ付けず社の新しき
高橋桃衣
筆談の最後は破線冴返る
米澤響子
「医者」「薬局」という場から年齢が想像できる。あるがままを淡々と詠んでいるが、年末の人々が殺到する場所で、ここでも待たなければならない、また、待たされるというやりきれなさが言外から察せられる。「待たされ」とか「待たねばならぬ」とか表現すると、愚痴や不満になる。事実だけを述べて思いは汲み取ってもらうという、俳句の骨法にかなった句だ。いうまでもなく季語に多くを語らせている。
企業の四十五歳研修で俳句を始めた作者も、喜寿を越えた。老齢の日々はこんなものだと冷静に描いた点に年季を感じる。
丘に図書館が立つ町は全国どこにでもあるが、能楽堂がある町はざらにはない。季語が、歴史ある木立と静けさを語っている。文化的に成熟した街を想像させる。単なる事実を述べただけだが、想像の世界が広がっていく楽しさがある句。
この句はヨコハマ句会の吟行で久しぶりに紅葉坂へ行ったときの所産。横浜に限らず、木立の中に図書館や能楽堂がある丘の上を想像してみよう。
ということは、昔はご主人と意見があまり合わなかったのだ。黙って従う妻ではないことも語っている。若い頃は、意見の違いを堂々と語り合った夫婦に違いない。ところが季語が語るような年齢になると、夫の意見に反発を覚えない自分を見出したのだ。
この句は近頃だけを語っているのではなく、若かった頃の夫婦のありようも語っている点に、工夫も味わいもある。
「知音」2022年6月号 知音集 より