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藤田銀子句集
『短篇の恋』
2023/3/1刊行
朔出版


十代の頃から詩文の創作を続けてきた著者。師の西村和子は〈蝶生る愛さるること疑はず〉の句を挙げ、「こうした本質に迫る句が詠めるのは、写生を怠らなかった証である」と評す。鋭い洞察力が詩にゆたかな発見をもたらす「知音」同人の第一句集。

◆帯より
AIが鐘撞く寺の蟻地獄
人工知能を駆使して鐘を撞かせるような時代性を十分認識しながら、一方では蟻地獄的存在を確信する『短篇の恋』には、硬質の抒情ともいえる歯切れのよいアイロニーが随処に見られる。
見えている現実と、見えない真実とを嗅ぎ分ける鋭敏さが銀子さんの身上ともいえるだろう。(行方克巳)

 

◆行方克巳選 10句
初仕事ペン一本の矜恃もて
正解の欲しき十代ソーダ水
浮輪積む店先掠め路線バス
待ち合はす終着駅の大西日
西鶴忌出合ひ頭といふ恋も
ヴェルレーヌ詩集背表紙秋の色
喧嘩売るやうにもの売る市師走
気の利いた嘘聞かせてよ春の宵
AIが鐘撞く寺の蟻地獄
うさんくさいもの輝かせ夜店の灯

 

◆あとがきより
表題「短篇の恋」は今回収録した句の文言からとった。壮大な長編小説は書けなかったがしかし、どんな長編にも劣らないだけの、言葉に対する恋慕は俳句でも示せるのだという自負を込めたつもりである。この思いが少しでも伝われば幸甚である。
(藤田銀子)