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知音 2020年12月号を更新しました

柿博打  行方克巳

ちつちやな秋ちつちやな秋ちつちやな秋の小走りに

浅知恵の恋のあはれや菊人形

抱かれてお夏菊師の意のままに

ハロウィンの南瓜のなかにされかうべ

ハロウィンの化粧崩れのやうな奴

禅寺丸鵜は唖々とばかり鳴き

柿博打渋い顔して笑ひけり

銃眼の三角四角柿の秋

 

小鳥来る  西村和子

廂間にけぶりたりけり小望月

待つ我に月人男つきひとをとことどまらず

実紫よべの月光浴びけらし

十六夜や雲の羽交に隠れつつ

十六夜の月よりの風かんばせに

久々に集ふ晴天小鳥来る

玻璃の楼積木の砦小鳥来る

小鳥来る天金の書に飾り文字

 

◆窓下集- 12月号同人作品 - 西村 和子 選

じやがいものよくぞ積まれし荷台かな
中川純一

親つばめ餌をやる口を迷はざる
井出野浩貴

今朝生れし蟬かじくじく鳴くばかり
高橋桃衣

白梅の万の蕾に心充ち
栗林圭魚

噴水の水が元気と男の子
田中久美子

秋さびし牛の黒眼に見詰められ
植田とよき

珈琲を挽く三伏の朝かな
藤田銀子

家路とは彦星と遠ざかること
吉田林檎

二人ゐて気怠き午後のカンナかな
石山紀代子

ゆで卵こつんと叩く秋意かな
米澤響子

 

◆知音集- 12月号雑詠作品 - 行方 克巳 選

昼顔や保健室では多弁とか
井出野浩貴

水澄むや川底浅く浮き上がる
松井秋尚

木雫の肩に項に涼新た
井内俊二

新涼の社にマウンテンバイク
小林月子

脈をとる指は三本秋の雨
天野きらら

芋虫に飛ぶなど思ひ寄らぬ事
井川伸造

そのひとつ夫の星なり星月夜
青木桐花

夏越会の痩せぽつちの猿田彦
島田藤江

裏山の裾を啄む鶉かな
山本智恵

仲秋の上野地階にゴッホの黄
吉田林檎

 

 

◆紅茶の後で- 知音集選後評 -行方 克巳

みづうみにうつらぬ高さ夏つばめ
井出野浩貴

天気のよい日には燕は空高く舞い、あまりよくない時には低く飛び回ることは経験的にも知るところである。私の中等部のかつての同僚で故加藤一男さん(通称ワンマン)はすぐれた教育者であり、中等部では山岳部の顧問として長いこと生徒に親しまれた、いわゆる強持ての人で、授業もクラブ活動も厳しいことで知られていた。その加藤さんの著書に『お天気占い入門』があり、私ははじめて燕の飛び方の真実を知った。つまり天気がよくて高気圧の時は、燕の食物である羽虫の類が高く飛び、雨模様などの時は羽虫の類は低く飛ぶ。だから当然餌をあさる燕の飛び方も変わってくるというのである。この句の燕は湖面に映らない高さで飛んでいるというので、どちらの空模様に近いのかは分からないが、いずれにせよある高さ(それは水面に映らないほどの高さ)を飛び交っている、というのである。「うつらぬ高さ」というやや曖昧な表現で事実を描写した一句ということになろう。

 

絵のひとの見下ろす視線冷やかに
松井秋尚

美術館か古城などに掲げられた肖像画。描かれた女性は確かに美しいけれどどこかに冷たさを含んだ視線である。それが主人公の為人ひととなりをストレートに伝えている。

 

この字に一族集ひ鳳仙花
井内俊二

昔の町村には「大字」と「小字」という区画名があった。この句、一つの字に同じ苗字を持った家が集まっているというのである。同族の人が一緒に移り住んで来たとか様々な理由はあるだろうが、今でもそういう土地がないわけではない。