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知音 2019年4月号を更新しました

達筆  西村 和子

梅まつり支度青竹切り出すも

梅園のその石組は井の名残

梅白し城主も歩みとどめけむ

梅園のおのづからなる敷松葉

梅に彳つ先師の影を失はじ

目覚めたるばかりひとつぶ犬ふぐり

住職の達筆掲げ梅の軒

小流れの乾上りてなほ芹の照り

 

水温む  行方 克巳

千枚漬二枚重ねし嚙みごごち

二つ三つ全部大根抜きし穴

瑞泉寺
方代に傘雨にゆかり竜の玉

永福寺
跡方もなきこそよけれ水温む

人ごゑのゆらゆら水の温みけり

梅祭さくらまつりのポスターも

犬ふぐりすぐに踏まれてしまひさう

梅遅速遅きに失したるもよき

 

◆窓下集- 4月号同人作品 - 西村 和子 選

薄雲の仄かに明し初時雨 石山紀代子
目札は被災護岸へ出初式 中田無麓
寒晴や一の鳥居へ海見むと 松井秋尚
大寒のきつぱりと立つ八ヶ岳 難波一球
弓始掻き残されし雪踏んで 原川雀
花八手奥の院とは水昏き 大橋有美子
鎌倉はけふも青空冬木の芽 井戸ちゃわん
寒牡丹お喋りを断つ気迫あり 大塚次郎
指揮棒のぴたりと止まり年新た 月野木若菜
着膨れて子熊のやうな赤ん坊 小池博美

 

◆知音集- 4月号雑詠作品 - 行方 克巳 選

初閻魔地獄ワンダーランドかも 鈴木庸子
白佗助咲かせ娶らぬ兄弟 本宿伶子
乗初や新幹線は男前 藤江すみ江
寒椿くれなゐは日にゆるばざる 冨士原志奈
棒切れを振つてゆくなり枯野道 小倉京佳
花街の気分も少し初戎 原田麦子
酔眼のその奥埋火のかすか 巫依子
寒稽古五重塔へ突きを入れ 植田とよき
手ほどきは父親なりし筆始 前田沙羅
子規庵の硝子の歪み鶏頭花 小野雅子

 

◆紅茶の後で- 知音集選後評 -行方 克巳

初閻魔地獄ワンダーランドかも 鈴木庸子

初閻魔は正月16日のお閻魔様の縁日のこと。この日は地獄の釜の蓋もあくと言われ、恐ろしい地獄の鬼も罪人を呵責しない日とされる。昔は藪人と称して奉公人が休暇を貰って親元などに帰れる日でもあった。この句の主眼は初閻魔の行事というより、閻魔大王の前で浄玻璃の鏡に生前の悪業を暴かれた者が行く地獄そのものにある。誰もが極楽浄土を願うのであるが、案外地獄の方がおもしろいところかもしれない、と少し遊んでみせた句作りである。

欲張りし福に手こずり戎笹 本宿伶子

福の神とされる恵比寿様を祭る神社で授与された福笹に、様々な縁起物をつけて貰い、家の神棚に飾る。あれもこれも欲張って大層重くなってしまった複笹を持て余しているのである。

きびきびと車内清掃旅始 藤江すみ江

新幹線を利用しての初旅であろう。入線してきた列車を清掃員の人達が待ち構えており、下車が終ると実に手早くまさに「きびきび」と次の乗客のために座席を整えてゆく。彼らの仕事とは言いながら、その手際のよさはホームで見ていても感心するばかり。私は新幹線は日本の文明を代表する優れものだと考えているが、このような縁の下の力持ちという存在もまた日本を支えてくれているのかも知れない。