コンテンツへスキップ

知音 2019年1月号を更新しました

◆窓下集- 1月号同人作品 - 西村和子 選

秋冷や朝の蜂蜜固まりて 中川純一
虹立ちて江戸蘇る日本橋 栃尾智子
拗ねてひとり笑つてひとり冷まじや 石山紀代子
草原の白く波打ち月今宵 井内俊二
みんみんの声の上から法師蟬 植田とよき
鳥渡る水平線のくつきりと 井戸ちゃわん
秋夕焼夢見る街となりにけり 佐貫亜美
身に入むや立退き終へしビルの群 月野木若菜
大文字見えて遥かに合掌す 山田まや
大工呼び植木屋を待つ台風禍 島野紀子

◆知音集- 1月号雑詠作品 - 行方克巳 選

冷やかや脚の関節こきとなり 中野トシ子
みなもとも河口も遥か水の秋 井出野浩貴
急ぐこと何にも無くて秋の暮 國司正夫
吹上の松より始む松手入 片桐啓之
仁王像の鼻の穴から秋蚊かな 原川雀
小鳥来るその木の幸のあるごとく 中川純一
蓮の実飛ぶ来世ふたたび契るべく 馬場繭子
深秋の心奥のわが熾火かな 松重草男
話し込む床屋酒屋の秋の暮 星山百
天高し十円玉をまた拾ひ 山田紳介

◆紅茶の後で- 知音集選後評 -行方克巳

そぞろ寒起きて又寝て出そびれて 中野トシ子

朝方になって冷える頃起きるのが面倒臭くてまた寝てしまった----というのとは少し違うようだ。何となく体がかったるいのである。そこでまだ起きるのには時間があるから二度寝をしてしまった。そして目がはっきりと覚めた時はいつもの起床時間よりだいぶ遅かった。すぐに支度をすれば間に合う約束なのであるが、結局ぐずぐずしていて出そびれてしまったというのである。普段だったら化粧もそこそこに家を飛び出すのだが、やはり体調のせいなのか積極的になれないのである。

鯖雲や千住に立てば旅ごころ 井出野浩貴

千住といえば勿論芭蕉翁の奥の細道の旅の出立の地である。300年以上昔のことではあるが、やはり俳句を志す者にとって千住という地名は特別なのである。中七下五の流れが自然でわざとらしさが無くていい。

急ぐこと何にも無くて秋の暮 國司正夫

せせこましい現代に生きる我らであるから、毎日毎日何かにせかされているように思うのはきわめて自然なことではある。まして暗くなるのがどんどん早くなる秋の夕方である。そういう気持ちはますます倍加するのも当然なことである。しかし作者は敢えて「急ぐことは何にも」無いという。そう自分に言い聞かせることによって、落ち着きを自分のものにしようとしているのかも知れない。でも確かによくよく考えてみれば、人は皆わざわざ忙しい状況に自分を追い込んでそれで何となく安心しているのかも知れない。