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窓下集 - 7月号同人作品 - 西村和子 選

とこしへに母は黒髮天の川  吉田 林檎
船室の天井眩し春の波    井戸ちゃわん
耳になほ都をどりのヨーイヤサ 米澤 響子
枝々の影はぐらかす春の水  松井 秋尚
真剣はときに滑稽猫の恋   山田 まや
ステップを踏みつ象の子春を待つ  若原 圭子
抗ひし日々を置き去り卒業す 藤田 銀子
その翳のなかをしだるるさくらかな 井出野浩貴
翠黛のはなやぎ増せり花の雨 中田 無麓
海沿ひの町へ出張夏近し   月野木若葉

知音集 - 7月号雑詠作品 - 行方克巳 選

フラミンゴ春のレビューの楽屋裏  大橋有美子
銀しやりに目刺突き刺し喰ひしころ 竹本  是
むささびの黒瞳の覗く巣箱かな   岩田 道子
たかんなの息に湿れる新聞紙    栃尾 智子
顔あげて桜吹雪の中にゐる     井戸ちゃわん
鳥帰る吾にも翼ありし頃      大野まりな
春愁の流し目寅さんブロマイド   植田とよき
針供養働く人の指太き       難波 一球
大原の茶屋のもてなし春炬燵    前田 星子
金庫室内窓開いて春の雨      板垣もと子

紅茶の後で - 7月号知音集選後評 -行方克巳

フラミンゴ春のレビューの楽屋裏  大橋有美子

普通我々が見るフラミンゴは虹色の羽を持ち多数が群れて行動する。動物園の檻の中で沢山のフラミンゴが細長い脚をふわりふわりと動かして独特の動きを見せている。その賑やかなありさまを、作者は春のレビューの楽屋裏みたいだと表現したのである。楽屋裏とは楽屋の内部ということで、舞台が開く前に踊子達が思い思いのステップを踏んだりして、準備をしている、そんな情景をフラミンゴ達の動き方に見て取ったのであろう。「春のレビュー」で明るい彩りのフラミンゴの集まりらしさを思わせる。楽しい比喩の句である。

銀しやりに目刺突き刺し喰ひしころ 竹本  是

中七の「目指突き刺し」が何のことか分からないかも知れないが、これは戦後の食料事情が悪かった頃を考えれば理解が行く。すなわち、兄弟が多いと副食物でもおやつでも取り合いになっただろうから、大皿の上の目刺も自分の分はさっさと取り分けてしまうのである。そしてそれを、これもまた貴重であった白いご飯に突き刺しておくというのである。何人もの男兄弟の食事風景である。

むささびの黒瞳の覗く巣箱かな   岩田 道子

むささびはリス科。前肢と後肢の間に膜があって木から木へと飛び移る。眼が大きく愛らしいのだが、この巣箱から覗いている黒瞳はどうやら子供のむささびらしい。