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窓下集 - 11月号同人作品 - 西村和子 選

江ノ電の乗り降り自由切符夏  久保隆一郎
湖に出る道遠し余花にあふ  中野トシ子
百本の堀つ立て柱海の家  米澤 響子
祭鱧逢ふときいつも雨もよひ 井手野浩貴
飛び出でて宙にとどまる草矢かな  松井 秋尚
星雲のほとりに1人キャンプ張る  岩本 隼人
新涼の銀座新調の上衣着て  國司 正夫
蓮の葉に触るれば銀の粒こぼれ  植田とよき
胃と腸と目と歯の検査秋暑し  馬場 白州
ビール酌む恋の話に尾鰭つけ 前山 真理

知音集 - 11月号雑詠作品 - 行方克巳 選

ねえと呼びかけてしまへり夜の秋  小林 月子
「ラジオ体操第一」八月十五日  國司 正夫
草も木も押し黙りをり朝曇  磯貝由佳子
免許証返上しぶり生身魂  河内  環
蜜豆や長女はなべて矩越えず  井出野浩貴
滝落ちて落ちてすつくと立ち上がる  中川 純一
芒野は光うつろひゆくところ  小山 良枝
時の日や手足を伸ばすお腹の子  青木あき子
この赤はつやつやの唐辛子色  山本 智恵

紅茶の後で - 11月号知音集選後評 -行方克巳

ねえと呼びかけてしまへり夜の秋  小林 月子

月子さんはこの七月にご主人を亡くされた。何かにつけて二人相談し、結論を出すという日常で、最も頼りになる人であったことは、他の句からも、また常日頃の彼女の落ち着いた言動からも推測に難くない。葬儀も了ってしばらくたった今も、呼び掛ければすぐに答えてくれるような気がする。昼の暑さも少し遠のいて、夜には少し肌寒さを覚えるような時、ふと思い付いたことがあり、思わず「ねえ!」と声に出してしまった。彼に聞いて欲しいことがあり、それが無意識のうちい言葉になってしまったのだ。
窪田空穂に、<人呼ぶと妻が名呼べり幾度をかかるあやまちするらむ我は>という歌があることを私は思い出していた。

「ラジオ体操第一」八月十五日  國司 正夫

ラジオ体操というのはまさに国民的といってもいいほど、日本人の共通の社会現象になっている。私も小学生の頃から高校生になるまで、スポーツ大会の準備運動として必ずこれをやってきた。夏休みなど、各町内会毎に早朝のラジオ体操に参加させられた記憶もある。そのラジオ体操の第一が、終戦記念の八月十五日の今日もスピーカーを通じて聞こえてくる。
思えばこのラジオ体操が敗戦国日本をずっと鼓舞し続けてきたような、そんな思いさえするのである。

草も木も押し黙りをり朝曇  磯貝由佳子

朝からどんよりと曇っている日は決まって暑い一日になるものである。全く風もなく、草や木は静まり返って物音もない。そういう様子を「押し黙り」という擬人法を用いて的確に表現した一句である。むんむんと蒸した今日一日がいやでも思いやられる。

中野のはら句集『象のうた』
2016/11/25刊行

◆第一句集
大阪が好きで嫌ひで蝉しぐれ
のはらさんのくったくのない俳句が私は好きだ。

銀杏枯れもうええやろと父逝きぬ
「もうええやろ」とは看取られる者の本音でもあり、感謝でもある。

終弘法ただでも要らぬ物も売り
一つの方向に固まらず、これからも自由にしかもつきつめた句を読み続けていって欲しいと思う。
(帯より・行方克巳)

◆自選十句より
寒灯を消させて父の身罷りぬ
うららかや象を見ながら象の歌
そこら中たんぽぽそこら中古墳
ポケットをあたためてゐる木の実かな
ショッキングピンクの春のショール欲し
何か言ひたくて黙りぬ梅真白
雲水の寒林を出で来たるごと
我を待ちくるる人ゐて冬あたたか
さりながら残花といふは痛々し
はつ夏の人見るためのカフェテラス