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知音 2018年11月号を更新しました

窓下集- 11月号同人作品 - 西村和子 選

死ぬるにもかかる銭金蟬時雨 井出野浩貴

新涼のさよなら私といふ別れ 久保隆一郎

夕涼の風はたゝと鳴りにけり 石山紀代子

鉄板のごとく海展べ港夏 高橋桃衣

金魚玉浮かべ売声威勢よし 岩本隼人

ランドセル重くなりたる更衣 植田とよき

蚊遣香百物語最終章 橋田周子

サンドレスハワイの水を売つてをり 竹中和恵

この道を辿れば若狭えごの花 中野のはら

夜濯の音の時折荒荒し 塙千晴

 

知音集- 11月号雑詠作品 - 行方克巳 選

白に白重ねて牡丹暗みたる 難波一球

機影いま光の粒に雲の峰 中野のはら

タイル張りエントランスの蚊遣香 中野トシ子

新涼やビルにイスラム礼拝所 井内俊二

月涼し門灯の電球(たま)切れしまま 小野桂之介

夜更かしの児の声通る夏休み 下島瑠璃

白牡丹深き眠りに誘へる 平野哲斎

父の日の父は放つておいてくれ 井出野浩貴

決め込みし髪を崩さず汗拭ふ 廣岡あかね

アメ横の残暑足首摑まれて 志磨泉

 

紅茶の後で

白に白重ねて牡丹暗みたる 難波一球

大振りの白牡丹―。みっしりと花片を重ねた豊かな白牡丹は、確かに白を打重ねているのだが、そこに自づから暗さが醸し出されてくるのである。白さから生じる暗さを把握した明と暗の対比表現がこの句の眼目である。

 

梅雨出水得体の知れぬもの流れ 中野のはら

荒れ放題に荒れたその翌日であろうか、濁りに濁った流れはさまざまな物を押し流して来る。その中に何だか判別のつかないような物が流れて来たのである。

 

蜩の鳴きだし坊や泣きだせり 中野トシ子

遠ち近ちに蜩が鳴き始めた。すると、今まで眠っていた赤ちゃんが泣き出したというのである。蜩は暗さを敏感に感じ取って鳴き出すのだろうが、坊やは、今まで昼寝をしていたのだが、暗くなる頃あいにふと目をさまして、かたわらにお母さんが見当たらないので泣き出す―。ある種の暗さに両社が反応した結果であるが、それを「鳴きだし」「泣き出せり」と重ねるように表現したのである。