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2018年2月号

窓下集 - 2月号同人作品 - 西村和子 選

ガウディの聖堂未完銀杏散る   久保隆一郎
巡礼の如し落葉の道ゆくは    井出野浩貴
栗おこは買ひてひとりの十三夜  江口 井子
すこしづつ道狭くなる冬紅葉   高橋 桃衣
梟の目の横向けば気弱なる    中川 純一
白障子背山の風の音を吸ひ    大橋有美子
懸崖菊大振袖を競ふかに     影山十二香
一陣の風を追ひかけ木の実降る  石山紀代子
野分だつ八瀬に鬼の子山の民   中野 無麓
先生の髪に焼きそば文化の日   岡本 尚子

知音集 - 2月号雑詠作品 - 行方克巳 選

陪冢を囲む稲田も刈り了へし   江口 井子
二番成りぶだう抓めば空青し   馬場 繭子
離島へとヘリは冬雲攪拌し    三石知左子
落葉踏みたくてしんがり歩きけり 松枝真理子
西鶴忌出会ひ頭といふ恋も    藤田 銀子
晩学に迷ひの少しちちろ虫    福地  聰
国王の肖像画かけ夏館      藤江すみ江
冬仕度転居仕度と仕分けして   三浦 節子
水音の昏きを纏うて冬紅葉    井出野浩貴
かじけ猫雪の轍に並びゐる    佐藤 二葉

紅茶の後で - 2月号知音集選後評 -行方克巳

陪冢を囲む稲田も刈り了へし   江口 井子

陪冢は陪塚とも書き、ばいづかとも読む。主たる古墳に近接した近親者もしくは従者の墓と思われる。その陪冢を取り囲むように稔っていた稲田も、すっかり収穫が済んでその苅株が目立つ頃になったというのである。他の句から類推して、この陪冢は天皇陵に侍るものと思われる。田地となった長閑な大和国原の秋の景として旅人の心を楽しませている。

二番成りぶだう抓めば空青し   馬場 繭子

同人吟行会で蛇笏龍太の山盧を訪ねた折に吟行したワイナリーでの作句である。収穫が済んだ後の二番成りの葡萄がかなり残っていて、それを一行の誰もが心ゆくまで味わったことである。西洋の葡萄畑と違うのは日本のそれはほとんどが棚作りであることだ。だから葡萄の房を切るときは棚からぶら下がった房を切り取るわけだ。我々はそこかしこに残された葡萄の房から思い思いの一粒一粒をいただいた。空の青さが印象的だった。

離島へとヘリは冬雲攪拌し    三石知左子

離島とは何処あたりを指すのか分らないが、普段常駐している医師が居ない島はかなり存在するのではないだろうか。その一島に派遣されて島人の健康状態を見るというようなことが年に何度かあるのだろう。ヘリコプターが渡航の手段のようだから、定期的に通う船などもないのだろう。冬の雲をかきまぜるような勢いでヘリは進んでゆく。これから一仕事が待っている女医さんの覚悟のほどがうかがわれる力のこもった句である。