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行方克巳第三句集『昆虫記』
1998/5/5刊行
角川書店

啄木のローマ字日記秋深し
栗飯や母恋へば父なつかしく
毛皮着てゆかしからざる立話
藤の花先つぽの意を尽くさざる
落つこちて地団駄を踏む毛虫かな
五月闇鑑真和上ゐたまへり
紫陽花や母のちぎり絵刻かけて
風神と背中合はせの涼しさよ
水中花古びたりける泡一つ
生涯のいま午後何時鰯雲

~あとがきより~
『無言劇』に続く第二句集『知音』を刊行して以来、およそ十年がまたたく間に過ぎ去った。一見平穏無事に見える私の日常にもずいぶん色々なことがおこっている。
平成八年、西村和子さんと二人代表制の俳誌「知音」を刊行したことは、俳人としての私にとって最も大きな出来事であった。その「知音」は順調に歳月を重ね、三年目を迎えた。
他人の句を選ぶ立場は実に危ういものであると実感したのも「知音」あってのことである。その間のわが句業を顧みつつ思うことは、作品こそ俳人のすべて、ということわりである。そして、その思いをかみしめる度に内心忸怩たるものを禁じ得ない。
私の俳句は実人生とはほとんど関わりのないところに成立しているように見えるかもしれない。確かに日常の自分自身と直面して作品をなすという行き方ではない。
しかし、このような立場においてでも自分の道を一歩でも前に進めるためには、さらに現実をしっかりと見据えて行かねばならないだろう。
句集名の『昆虫記』は、作品の中にかなり多くの小動物が登場し、中でも昆虫類がきわだっているという事実によった。
この句集が成るに当ってご協力いただいた多くの方々に感謝申し上げたいと思う。