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西村和子第二句集
『窓』
1986/2/25刊行
牧羊社

水温みそめたる授業参観日
虫時雨しづかに受話器置きにけり
ペダル踏む背の無防備に冬の路地
囀や雨の上がるを待ちきれず
心隠しおほせて淋しサングラス
跣の子渚を飛行機走りして
歳晩のショーウインドに映り待つ
麦笛や夫にもありし少年期
花水木明日なき恋といふに遠し
プールより上る耳たぶ光らせて

~あとがきより~
俳句を作り始めて数年経ち、何でも句になる面白さを覚えた頃、清崎敏郎先生から「句を作る時は必ず窓をあけて作るんだよ」と言われた。窓が閉まっていても見える物は同じなのにと思いつつ、窓をあけてみた。すると、それまで聞こえてこなかった鳥の声が、風の音が、遠い町のざわめきが聞こえて来た。土の匂い、草の香りがして来た。雨上がりの大気のうるおいも伝わって来た。先生が私に教えて下さろうとした事が、その時少しわかりかけて来た。
二人の子供の子育てが始まり、思うように句会へ出て行けなくなった時期、岡本眸先生に出した手紙のお返事に、「窓が小さければ小さいほど、ほとばしり出る力は大きいはずです」と書かれてあった。仲間から取り残されたような淋しさの中で、俳句への思いを確かめて暮らす日々も、無駄でないのだと思えてきた。
やがて下の子が幼稚園に上がり、時間の余裕が出来た時、同じ年頃の子供を持つ友達と小さな句会を作った。子供達が帰宅するまでには帰っていられるように午前中の集まりとし、「窓の会」と名づけた。こうして、今できることから少しずつ始めて行けば、だんだん道はひらけて来ると思えてきた。
第二句集を「窓」と名づけた所以である。